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ホリィ(新人)のことを語る

料理で好きなのは芥川孫十郎が長慶に振る舞った「黒飯」のシーン。
まだ少年ながら奉行として京兆家に出仕しはじめた長慶が命を受けて丹波に訪れ、後に正室となる波多野稙通の娘と5年ぶりに再会して思いを確かめ合うという回なのですが、そこになぜか親戚の孫十郎が豚肉と豚脂の調達を長慶に依頼して、明の商人から教わったという「つおはん(黒飯)」を振る舞うという話が入るんです。

http://trillion-83k.hatenablog.com/entry/2016/10/02/150117

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  • 出された品は、確かに見たこともない料理だった。つやつやと照った漆黒の飯の中に、豚の角切り、鶏卵、葱が混じっている。豚脂と醤・胡椒で炒められた飯からは暴君の如く、あらゆる者の食欲を煽りまくる匂いが溢れ出ていた。

    添えられた木の匙を使って飯を口に運ぶ。熱い。鍋の熱がそのまま飯に宿っているようだ。だが、香ばしく、美味を確信させる匂いにはもう抗えそうにない。火傷も恐れずに一気に噛みしめた。

    「!」

    うまい。これは、本当にうまい。あふ、はふと口中の火事を鎮めながら、長慶は夢中で飯をかきこんだ。

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  • 当初は、なんだかうまそうな描写だけどなぜここで…?と思ったものですが、ここに限らず色々なところで登場する食べ物シーンを読むにつれ、背景にある土地の歴史や文化の紹介を兼ねることで、地理に疎い読者でも何となくイメージを掴みやすくなったり、緊張感のある場面が少し緩んだりと、物語に奥行きを生む効果があるのかなぁと。

    三好宗三が部下とともに最後の戦いに赴こうとする際にも、貴重品だったという椎茸を口にするシーンがあり、部下の一人は「し、椎茸を初めて食べた。もう悔いはない……」とまで言っていて、籠城の辛さを表現するシーンでもあるのですが、いざ戦いという時に椎茸の煮しめが登場するところに何とも言えない妙味を覚えたのです。