/あなたを呪うプチ不幸

服の裾からちょっと出ていた糸を引っぱったら、縫い目がぴろぴろほどけてきますように。

背中が痒くなるたびに、まごのてが行方不明になりますように。

缶詰のプルタブがもげて、昼食になるはずだった缶を前に途方にくれますように。

ほしかったシリーズものの本が、どこへ行っても一冊だけ見つかりませんように。

あきらめて手元のを廃棄したあとで、洗濯機の下からカピカピにひからびた片割れが出てきますように。

作りかけのホットミルクが突沸して、レンジの中じゅうに飛び散りますように。

プッチンプリンのプッチン用の爪が微妙に折れていて、逆さにした瞬間にプリンがなだれ落ちますように。

なけなしのシーチキン缶の、プルトップのつまみだけもげますように。

煮物を食べたら、ごりごりしたハズレのさといもに当たりますように。

洗顔中に小指が鼻の穴を直撃しますように。

24色いろえんぴつの金と銀の代わりに、白がよけいに入っていますように。

新しいゲームソフトを買ったとたんに、ゲーム機本体が壊れますように。

普通に2個入っていそうに見えた落花生の中の豆が、一個ちょりちょりにひからびていますように。

自分のお椀の味噌汁だけ、アサリの殻しか入っていませんように。

行列に並んでいる最中に、突然の便意に襲われますように。

出かかったくしゃみが不発に終わって、むずむずだけが残りますように。

外に出たとたんに土砂降りになって、建物に入るとやみますように。

途中までしか覚えていない歌が、頭の中でぐるぐるリピートしはじめますように。

何気なく座ったベンチに、前日の雨がしみこんでじっとりしていますように。

しかも勇気を出して注文したら
「カルボナーラひとつー」
などとごく普通の名前で注文を復唱されますように。