しゃがみこんで子供の目線になってみたけれど、あの頃見えていた世界は、そこにはなかった。
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Tips:書きやすい書き方が、読みやすい文章になるというものではない。時には読む側の目になって自分の書き物を見直してみよう。
一行超短編のことを語る
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空から落ちてきた最初の雪の一片が、彼の肩で融けて消えた。
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おせちをつまみながら今年も、「お父さんさ、足袋にお年玉を入れてくれたのはいいとして、メリークリスマースみたいに『きんがしんねーん』て言ってたのはやっぱり変だよ」と、小さい頃の話を蒸し返してしまう。
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「私はもうここでお別れだけど、これからは彼女があなたのそばにいてくれるから」と、鼠が牛を置いていったので、途端に部屋が狭くなった。
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通りかかるたびに「いつか入ろう」と思っていた店は、「いつか」を待たずにつぶれてしまった。
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手の中で眠るそれは毛糸玉のようなのに、その温もりの重さときたら。
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着替えもしないでだらしない、と誰かの声が聞こえた気がして、セロリをかじりながら泣き笑う。
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雨が上がった夜はことさらに冷たく、吐く息と同じ白さで見据えながらさよならを言う。
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痛みも喜びも喧騒も光も苦汁もすべて均されて、一人立つ、秋の夜。
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一つ傘の下に入りながら、握られた柄に嫉妬をする。
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ルームシューズを編みたい、などと思ってしまう8月はどこかゆがんでいる。
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盲目の日々にも空の美しさだけは正しく映った。
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笑っていい。笑えばいい。吐き出した唾も飲みこんだ真実もいずれ土へ帰る。
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行くあてのない乗り物で、よどんだオレンジ色の夜の中を通り抜けていく。
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両手で抱えきれるだけのものしか、持っていたくないのに。
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後ろ足で砂をかけたい恥がある。
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夏を駆け下りる夜、優雅なふりでゆれる百日紅の花、そこに孤独が隠れていることを知っている。
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じいさんは今日も釣れない釣堀で、桃を食っていた。
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子供たちは星捕り網を掲げて、夜の公園へと散らばっていった。
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脱衣所ほど、家にいる安心感を得られる場所はない。
/一行超短編