5ヶ月ぶりに床屋へいく。
脱毛する抗がん剤を止めてから初床屋、そして退院後初の一人お出かけ。
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今日のダンナのことを語る
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吐くだけ吐いておよそ5ヶ月ぶりに身体を横たえて眠れた。
座って寝ないと吐いてしまうからとずっと身体を起こしていたのだった。
目指せゲロマスター。
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「吐かずにすむようにするには」から
「いかに楽に吐くか」へシフト。
吐かないことを目標にしていたときは吐くことは敗北であり挫折であり失敗だったが
楽に吐くことを目標にしてからは吐くことは挑戦であり実験であり成果になった。
先月末から吐かないようにと水も飲まずにいたけれど
水を飲むと吐きやすいからと水を飲み始めた。
いい感じ。
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緩和ケア病院と呼ばれる要するにホスピスで
がん商売最前線感のあるやり手営業マン風おばちゃんに
「リットルじゃありません、ミリリットルです」と指摘する。
「ええ、腹水を抜いたんですよね?」
「はい、3L」
「大丈夫ですよ」
強固な笑顔でほほ笑むおばちゃんのメモには「腹水3000ℓ抜く」と書いてあった。
ダムかよ。
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役所から介護認定をする方が来られた。
「入院中に介護認定をしてもらった方がいい」
と病院で言われたが、退院を強く推したので退院後になった。
入院中は寄ると触ると車椅子移動で、ベッドの足下には尿瓶があり、着替えはナースコールが必要だった。
入浴は週に一、二度、浴室が空いていて体調のいいときだけ。
あとは濡れタオルで拭いてもらう。
夜は眠れず、することもなく、妻の面会を待つことだけが楽しみという日々だった。
自宅では自分で歩いてトイレを使い、着替えて入浴し、階段を昇り降りしている。
洗濯機を回したり、洗濯物を畳んだりもできる。短い距離な…[全文を見る]
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点滴の管を外さないで脱ぎ着できるよう妻がTシャツを次々に改造している。
「ボタンホールが等間隔につけられない。
お洒落さんだったら自尊心が傷つくような仕上がりになっちゃう。
着てて気にならない?」
「そんなことない!これこそ本当のお洒落よ。
もちおは妻の愛をまとっとうんやもん」
ダンッ!
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席を外して
「ミキプルーン」「三基商事」
で検索すると
「副業 マルチ」
と出てきてげんなり。
帰り際玄関先で
「お金に困ったら、気軽に相談してください」
と小声でいわれ
「太い親がおりますので、大丈夫です」
と生まれて初めて社長令嬢スマイルで返した。
微妙な顔で帰っていった来客はかつての父の部下である。
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「自分もこれを毎日飲みようとですよ、奥さん、これに水を」
「…胃が閉塞してしまって、ご覧の通り、いまは点滴で栄養とってて水も飲めんとですよ」
「そう思ってですね、このカプセルを舐めてみらんね?奥さん、ハサミ貸してもらえますか?」
「…お気持ちはありがたいのですが、いまは自分の唾も吐いてしまうので」
「これとこれをこうやってシェイクして、はい(ゴクゴク)一口飲んでみて」
話聞けよ。
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かつての仕事仲間が見舞いに来ると数日前から楽しみにしていたが、
「これだけで数万円分ある」
と紙袋一杯のミキプルーンラインナップを披露され、吐いた。
かわいそう。
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1日4回だけ、3時間で切れる痛み止めを使える。
切れると激痛らしく七転八倒しながら罵詈雑言を吐く。
重い生理痛に襲われているのだと思うとかなり同情心がわき、あれこれ不問にできる。
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今年結婚式を挙げた妹に電話。
「結婚式の引き出物でもらったタオルケット、すごく気持ちええよ。ありがとうな。いつもええもん選んでくれて」
そのタオルケットはカタログギフトから選んだのよ。
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「昨日500円儲かったんですよね、今日はどうですか?」
「1000円損しました」
看護士との会話が仮想通貨というよりパチンコの話みたいだった。
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一カ月ぶりに車の運転をする。
車椅子押されるより自動車運転する方が楽しい模様。
退院推してよかった。
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[今日知ったこと]
緩和ケア病院へ見学へいけと言われていってきた。
緩和ケア病院ってホスピスのことだったんだね。
がん商売最前線で売り上げあげてます風のケアワーカーさんに案内される。
「生きながら葬式あげられているようなところだな」
小奇麗で明るいセレモニーホールにそっくりで心底ゾッとした。
ないない。あそこはない。
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「通院される場合はこれから二週間、日曜日も含めて毎朝来院していただくことになります。
体力的にかなりの負担になるかもしれません。
訪問看護、訪問医療で往診に切り替えることも出来ますが、どうされますか」
「体調もいいので、大丈夫です。通院します」
ちょっとは送迎する妻にも大丈夫か聞け。
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急遽退院が決まってご満悦。
家にいるだけで何割り増しで調子がいい。
入院23日中22日面会へ通った妻と明日から一週間毎日通院。
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妻が県警の刑事に会った。
「福岡県警の刑事さんね、声がいいなと思ったら容姿もモデルか俳優かって感じの若い男性だった。
引き締まった身体に浅黒い肌でサーカスのスターみたいな隙間のない睫毛がびっしりカールしていて」
「駱駝みたいなやつか」
「女性の刑事さんも一緒だったんだけど、ドラクエで同じ職業に似た感じの男女がセットになってるみたいによく似た雰囲気だった。
浅黒い肌に引き締まった身体の小柄な人で、南欧系の可愛らしい、でもキリッとした方」
「駱駝とマングースか」
よくこんなこと思いつくな。
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外泊許可が出て台風大雨のさなかに一時帰宅。
「24時間付ききりで看護されてこの惨状なのに家でどうなることか」
と戦々恐々立ったが家は落ち着くらしく痛み苦しみは大幅に減った。
ありがたい。
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臨床心理士のお姉さんに
「そんな一言一句前回と同じ不自然な対応されるとお芝居みたいで自己開示できない」
と食い下がって
「え~!ひねくれてる~!」
といわれたらしい。
自己開示できてよかったね。
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10日ぶりに車椅子で外へ出て木陰で休む。
「あそこに雀がおる」
「どこどこ」
「あそこ。かわいい」
「ほんとだ。あ、飛んでっちゃった」
「傷ついたんだ。『かわいいっていわれた。俺、雀の中じゃデカい方なのに』って」
傷心のマッチョ雀。
/今日のダンナ