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Tips:横着して自分に楽な書き方をすると、第三者には「何について」言っているのか分かりにくい文章になるよ。
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花うさぎのことを語る

  • ---「夢のように、おりてくるもの」第六話 ------
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    「やっぱ、あなた、面白い」
    「おもしろい?」
    「ええ」
     ひとと違う職業だから興味を持たれたのだろうかと考えて、彼がさきほど「興味本位」という言葉をつかったことを思い出して床をみる。神経過敏になりすぎているのはきっと、わたしのほうだろう。彼はわたしが頭をあげるのを待ってから口をひらいた。
    「気を悪くされたなら、すみません。その、ありがとうございます。おれのほうも焦ってあなたを驚かせたみたいだし、この話はまた今度ってことでいいですよね?」
     そういった顔には、さきほどのようにうち…[全文を見る]

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花うさぎのことを語る

  • ---「夢のように、おりてくるもの」第五話 ------
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    「待ってください。わたしは依頼人の家に必ず泊まるわけではありませんし、それより何よりご承知でしょうけれど、わたしは女性ではありませんよ?」
     いまの言葉から察するに、彼はきっと、わたしが依頼を受けるたびに依頼人と一晩過ごすのだと思っていたのだろう。それは完璧な誤解だし、とりようによっては古からつづく典型的な「夢使い」への偏見と侮辱にも成り得る。
     それについてどう話したらいいか考えようとして、彼の眉が真ん中に寄せられていることに気がついた。それは、不快なものを見せられた表明だ…[全文を見る]

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  • ---「夢のように、おりてくるもの」第四話 ------
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    「さっきは災難でしたね」
     ロッカールームを出たところで同僚に声をかけられて目をしばたくと、彼はすこし困ったような顔でつづけた。
    「おれが出てくとよけい厄介なことになったと思うんで」
    「わたしの仕事の件ですから」
     撥ねつけるような言い方をしたわたしにも、彼は表情をかえずにつづけた。
    「それはそうなんですが。おれのいたとこじゃ、夢使いのひとにあんな言い方するなんて有り得ないんですよ。その……」
     あんなふうに扱われる存在ではないと、そう言ってくれているのだと察した。彼の故郷では、闇…[全文を見る]

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  • ---「夢のように、おりてくるもの」第三話 ------
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     ひさしぶりに、「物乞い」という言葉をきいた。夢使いに対する、一般的な罵倒だ。その昔、夢使いの多くが放浪し、一宿一飯の礼に香音を鳴らした。だんだんに定住するものが増えた今、わたしのように副業とするほうが多いだろう。今ではちゃんと組合さえあるというのに、物珍しさと異なる能力への反撥ゆえか、差別は色濃くあるようだ。
     それでも、数十年前までは、夢使いはもっと生きやすかったそうだ。力のある夢使いは尊崇をあつめ、御殿のような家に住むものもあったと聞く。もちろん、夢使いは公職につくこ…[全文を見る]

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-----「夢のように、おりてくるもの」第二話 ------
 
 
 こうして思い返してみると、彼は帰りがけや休憩のときに自分の得意料理から気に入った映画のはなしなどするくせに、夢使いの仕事に関しては一度も口にしなかった。店長をはじめ、たいていのひとびとが真っ先に興味や関心を示すその一点に触れようとしないのは、もしかすると夢使いを軽蔑しているのかもしれない。同じ年頃の気安さがある一方、ひんやりと滑らかな絹の手触りに似て、奇妙に隔てられているようにも感じていた。それが都会のひとらしさかと思っていたが、真実は、わたしの稼業へのわだかまりのせい…[全文を見る]

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  • ---「夢のように、おりてくるもの」第一話 ------
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     わたしの一日は、夢秤の調整からはじまる。
     夜のうちに降ってきた夢は、その香音の振れ具合で秤の傾きを変えてしまう。先週この安アパートに越してきた起業家のおかげで、わたしの仕事道具は悪夢のほうに傾きやすい。寝る前に悪戯をして少しばかり心棒をずらしておいたのに、滑稽なくらい斜になっている。
     どうやら昨夜、隣の男にはよい夢が降りたようだ。アーモンドに似た甘い匂いが残響にうっすらと揺曳している。彼はいま、夢から醒めたに違いない。わたしは髪をふりはらい、その芳香を胸いっぱいに吸いこ…[全文を見る]