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花うさぎのことを語る

  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」3------
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     彼女の七つの夢見式から識(し)ってました。私の初仕事でしたから。祖父が私の披露目に用意したのがそれでした。けれど彼女の一族は納得しなかった。生きているうちに伝説と化した夢使いにあがないをさせたがった。私の家と彼女のそれは浅からぬ因縁がありましてね。いっときはあのお屋敷に住まわせられたこともあったそうだ。まあいってみれば郎党です。離反したのは御一新(ごいっしん)の時で、社の件で揉めたのです。お縄になった者がいるだけでなく、ひと独り死んでるそうです。まあ昔の…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」2------
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     おれは何気ない顔つきで本の頁を捲りながら盗み聞きしている。彼のすぐ近くで、その初恋の人との会話を。
     伝説の、というのはこのひとの師匠の祖父にあたる夢使いで、たしか一万を超す人間に夢を饗したといわれる人物だ。資料館でみたかのひとの「階梯」は二階屋に届くほどのおおきさで見るものを睥睨し、その業績に相応しく偉大であった。いまなおおれの胸には横木縦木を金銀に煌めかす威容がとどまっている。あんなものを見たあとでその名を聞いては、さすがのおれも知らんふりではいられな…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」1------
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     おれの恋人はケータイの呼出音には敏感だ。長い髪を揺らして立ち上がりすぐさまそれを手につかむ。ケータイへの連絡はそれ即ち夢使い稼業の依頼に他ならない。だが、ごく稀に仕事の件ではないこともある。今夜の電話はそのプライヴェートのほうらしい。名乗ることなく電話に出た。

     あなたのお師匠さんにプロポーズされたんだけど、どう思う?
     委員長? いきなりどう思うか聞かれても僕にはその……
     こんなこと高校時代のクラスメイトに相談しちゃうあたしもどうかしてるんだけど、情けな…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」5------
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     メールひとつで約束を無碍に断られる。そんなふうだから遊ばれているのはわかっていた。なのに当の相手から連絡があればあたしはそれに縋ってしまう。過去に付き合った男たちも実はこんな気持ちでいたのかと、今ごろになって酷いことをしていたと気がついた。
     あのひとからの連絡が途絶えはじめて、あたしはますます食べなくなった。あのひとの女性らしい丸みのある柔らかなからだが欲しかった。抱かれるとほっとした。離れたくなかった。けれど逢いたいと重苦しいメールを送れば…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」4------
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     わざとらしく固められた髪を丁寧に二度洗いする。嗚咽はシャワーの音にかき消され泡とともに流れいく。なぜ泣かなければいけないのかわからない。初めての男に遇ったから。ちがう。従兄が結婚するから。違うチガウ、そうじゃない。あんな男たちがじぶんの知らないところで勝手に幸せになっていることくらい、気にならない。
     けど、
     あのひとはシアワセだろうか。
     不幸でいて欲しいと呪った。ほんの少しだけでいいから。
     ほんの少しでいいから、あたしのことを、痛みとと…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」3------
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     二次会で何人かの男のメアドはありがたくいただいた。手際のいい相手はこちらのそれも持っていった。送るといわれて丁重にお断りをいれたのにしつこくされて眉をひそめたところで肩越しに声がかかる。
     こんな遅くにも着崩れた様子のないスーツ姿でやってきた従兄の腕をとる。困り事があると勝手に出てきて物事を解決してくれる、便利だけどうざったい人。
     よさげな相手もいたけれど、これで続きはなしになった。それもめんどうがなくて悪くはない。たぶん。

     じつは、結婚し…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」2------
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     結婚式の二次会が始まる前に、バッグにしのばせていた「お守り」を便器に流した。チョコレートクッキー。あのひとが、あたしにさいしょにくれたもの。取引先が主催するパーティー会場で、こういう場所で我先にと皿をいっぱいにする女はみっともないわよねといきなり悪口を聞かされながら。

     ごくたまに、こういう駄菓子が欲しくなる。どこででも買えて、すぐ口にほうりこめるから。

     あのひとはそういって、パティシエが拵えた愛らしいデザートを脇においた。IT企業の社長夫…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」1------ 
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     あかちゃんができた。

     あのひとはそう口にした。旦那とはしてないって言ったのに。

     うそつき。

     あたしはそう罵らなかった。かわりに、おめでとうと返した。すると彼女はほっとしたようにテーブルのうえで組み合わせていた指をひらいた。上品なネイル。その睫の長さ、ごく丁寧に入れられたアイライン、それ相応の年なのにしみひとつ、しわひとつない肌を眺めた。これが最後だと思いながら。
     その、いかにも贅沢に拵えられた女のすべてを眼に焼きつけようと見つめた。

    [全文を見る]

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というわけで、
店長のおはなし「多分、夢のように」はこれにておしまいでございます 
シリーズちう、実はいちばんの「萌えキャラ(!?)」であると判明してしまったみたいな店長ですが、どうぞ今後とも弄り倒していただければ幸いに存じます、いやまじでまじでまじでv
まあそれはともかく、
第三部は短編連作みたいな形でそれぞれに主役を交代させながらゆるゆるやっていく予定です
てなわけで、
次回はいいんちょですv
おったのしみに~♪

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「多分、夢のように」3------
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     たいていの夢使いは七つの夢見式にその才を見出してくれた者を師匠とする。だが、俺の娘のあがないに立ち会った夢使いはその成長を最後まで見守れないかもしれないと告げてきた。病が進行していた。
     両親は別れ、師匠は倒れるでは娘の将来はどうなることかと危ぶまないではない。まあ、俺の娘なのだからほんとうのところ心配なぞしていない。する必要もない。かわりの師匠はこれ以上ない「逸材」を用意した。親がなくても子は育つ。そういうもんだ。
     そうひとりごちてはみたものの、…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「多分、夢のように」 2------
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     しかしながら。
     その娘は娘で、つまり俺の妻だった女は父親を憎んでいるわけではなかった。あの女が本当に恨んだのは俺のほうだ。要するに、俺は妻に嫉妬されていた。自分の出来なかったことを仕出かしたから。

     俺の大胆さに。
     不届きな振る舞いに。
     あの女は嫉妬と羨望のまなざしを向けた。今でも、向けている。俺の前で泣いてみせたのは、自分の不甲斐なさのためだっただろう。

     今さらだが俺はあの女のそういう気の強さに惹かれていた。誰もが羨む美貌でも楚々とした風情…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「多分、夢のように」 1------
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     あいつら、ほんとに出来上がっちまったのか……。
     ガラス窓の向こうは粉糠雨、一本の傘に二つの人影が寄り添っている。俗に云う、相合傘だ。
     たかが相合傘で出来上がったもないもんだが、彼等はちかごろ様子が違った。かれらとは、彼等。夢使いと、うちの学生アルバイト。ふたりとも男。ともに二十代、コンビニエンスストアのアルバイト店員。そしてそれを盗み見る俺は店長。という構図だが、さて。
     俺はあいつらが出来上がったその日も実は知っている。若者同士だ。肉体的に繋がる…[全文を見る]

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コラボ花うさぎ第二部「階梯と車輪」にお付き合いくださいましてどうもありがとうございます!!
文章担当florentineこと磯崎愛です
いただいた御☆様の数々、コメントその他、大事にだいじに抱えてます
ものすごくものすごーく励みになりました!! 
そしてなんか変なこというようですが、
三十週も連載するなんて壮大なプロジェクトみたいでちょぴっとビビったわたしですw
しかも116もエントリあるし!
うひゃーーー、積み重ねってスゴイ!
うささん、長いことお疲れさまでございます☆
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

そんなわけで
振り返って辿りやすく…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」30話------
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    「で、おまえさん、そのまんまあいつに居座られてるってわけか」
     店長が小机に座り、タバコに火をつけて話しかけてきた。エプロンを外してロッカーを閉めて振り返り、なんとこたえようか往生した。すると、
    「そんな困った顔するなよ。俺は気にしないさ。俺の娘もな」
    「お嬢さんは、気になるんじゃないんですか。まだ小学生になったばかりだ」
    「ばーか、夢使いになるなんてけっこうな運命背負っちまったら、誰と彼が出来上がろうが別れようがそんな細かいこと気にするかっての」
    「わたし…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」29話------
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     起き抜けすぐに、おれ怪我してるのに、と彼が不貞腐れた顔をした。たしかにかなり無理をさせた。泣き声というよりはっきりと悲鳴を聞いた気がする。気がするでなく、あげさせた記憶がある。が、舐めときゃなおるといったくせにとこたえるのも馬鹿らしいし、よがったくせにというのも品がない。それに、わたしより若いくせにと返すのも癪だったので無視すると、今夜は寝かしませんからと意気揚々と耳もとで口にされた。
    「今夜は仕事です」
     え、と本気で驚いて目を丸くした彼をみる。
    「昨…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」28話------
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     いつの間にか雨はやんでいた。この寝台(ベッド)で、雨音を聞かなかったと苦笑する。
     ほんとうに、あなたひどい。
     隣で眠る相手がさいごに呟いたことばがそれだった。言葉と裏腹にしごく満たされた顔をしている。そう、まるで「晏」をもたらされたような寝顔だ。
     その顔、転んで擦り剥いた傷のある面(おもて)をわたしは暗がりでひとり眺めている。
     この地でいちばん馨り高い香音をおろしたような気持ちがした。こうした比喩は何かしら誤解を招く気もしたが、師匠の祖父が豪語し…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」27話------
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     その瞬間、背が軋むほどに抱きしめられた。息苦しさに喘ぐ唇を追い、頬を掴まれて貪るように口腔を荒らされた。愛撫と呼ぶには一方的にすぎ、それでいて切なさがます。ただたんに自身の欲望が解放されることを希(こいねが)う激しさとは違う。そう感じて戸惑った。だが狭い浴室で男ふたりが抱き合うのは窮屈で仕方ない。せめてベッドへ行くべきだと頭で思うが猶予もないほど切羽詰っていたのは彼のほうだ。
     そうして縋りつかれて思い当たる。
     彼は、置いていかれた子供なのだと。
     好…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」26話------
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     おれを好きなのに逃げて。
     脇腹になすりつけられたことばが真実であるとからだが識っている。余裕のなさを羞じるのはプライドのゆえか。あっけなく達するわけにはいかないと唇を噛むが、極度の抑制はかえって自身を追い詰めた。
     押しのけようとして触れた髪、それさえ濡れて柔らかく指に絡みつく。思わず掻き乱すとお返しとばかりに逆さに撫であげられた。肌を粟立てて腰を引く。だが後ろは壁で逃げ場がない。女に触れられたことのない場所を探られただけで急激に体温があがり、太腿に…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」25話------
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     焦ってドジ踏みました。転んだだけ。心配ない。囁きを拾いとろうとする頭を両手に挟まれて壁に押し付けられている。油断した。片手にはまだ携帯電話を握り締めていたわたしに反撃の手はない。ほとんど身長が変わらない相手とこんな近くで接するのは初めてのことだった。その現実に驚いてすぐ雨のにおいに気をとられた。髪の先から零れ落ちた整髪料の香りに混じったそれが血のにおいを消した。むき出しの肘とあご、それと掌に擦過傷がある。血の出たままの頤(おとがい)に触れると痛がるよ…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第二部 「階梯と車輪」24話------
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    「夜分すまない。あいつ、行ったか」
     なぜ店長がこんな夜更けに彼の行方を問うのかがわからなかった。何かあったのだろうかと無意識に手に力がこもる。するとこちらの緊張に気づいてか苦笑まじりに続けた。
    「度外れた方向音痴なんだよ。なのにいい加減な地図かいて渡しちまったから気になってな。来るなりケータイ落として壊したとかいうし、ゾンビみたいな顔してたぞ」
     何があったと問わないのがこのひとのやり方だと察した。
    「来たら、連絡いれるよう伝えます」
    「いや、いらん。あい…[全文を見る]