/うちの電気羊が…

家に帰ると、うちの電気羊が電気も点けずにキッチンに踞っていた
訳を尋ねると、いつか自分も揉まれたり漬けられたり寝かされたりして焼かれて食べられちゃうんだと言う
あなたはラムでもなければ、マトンでもない、電気羊に食べられるところなんかないでしょう？と諭すと、わぁっと泣き声を上げて、自分の羊小屋に駆け込んだかと思うと、中から鍵をかけてしまった
わたしがあなたを食べることないでしょう？わたしたちは、なかよしなんだからって言えばよかった
お詫びの手紙を書こうとしたけど、電気羊の名前が思い出せない、なかよしのはずなのに
そういえば、電気羊に名前はなかった
電気羊かってなかった

キアヌに意志を与えられたらしくって、さっきからどうしようかなぁどうしようかなぁって悩んでいる
聞いてみたら、ストパーかけてみたいんだけど、ウールが傷むんじゃないかなぁって
傷んだら刈ればいいから、ストパーかけてみたらいいじゃんって言ったんだけど、ウールは羊の命なんだって
電気羊の命はウールじゃなくって、その存在そのものだよって言って抱き寄せたら、昼間温かかったから保温機能を切っていたらしくって、冷たかった
ううん、夜の空気が冷たいんだ
電気羊かってなかった

うちの電気羊が、引っ越しストレスなのか、すっかり毛がぼさぼさになっている
ブラシをかけると、とてもうれしそうに「めえめえ」鳴くのだけど、微妙にハウっていて、それもまた切ない
ごめんね、でも、電気羊が気に入るような引っ越しをしたつもりなのと、ぷるぷるに丸まったおっぽの辺りを撫でようとしたら、手が宙を泳いで…
中華料理では高級食材のおっぽ、どこにもなかった
電気羊かってなかった

うちの電気羊が「男前　男前　男前」って持ち上げた挙げ句に「うち、寄ってく？」と高橋一生を口説いているので、「ダメだよ！うち、片付いていないし！ちょっと、着替えて、お化粧するから待って！！」って大慌てでお風呂に入ろうと思ったけど、電気羊じゃなかった
吉田羊だった
電気羊かってなかった

うちの電気羊が、 朝起きたらいなくなっていて、テーブルに置き手紙があって
「ぼくはらぼにいきます ぼくがいなくなつたらあ

うわああああ！ネタバレ！ネタバレー！

と思ったら夢だった
電気羊かつてなかった

うちの電気羊が、「今撮っている映画が終わったら、アカプルコなんだ」と言ってアロハや海パンを用意しているので、「たぶん、違う。どこかを縦断か横断じゃないかな」と思っていたら、縦断や横断じゃなかった
虎を見るまでブンブンブラウ缶詰だった
電気羊かってなかった

うちの電気羊が、深夜の東名高速を爆走していると聞いて、慌ててテレビをつけたらデコトラだった
電気羊かってなかった
生きていてよかった

うちの電気羊が、もこもこの毛にブラシをかけていたら突然
「長いこと、騙していてごめんなさい。僕、本当は電気の国の王子なんです」
と言ってピエール瀧になったので、思わずその手を掴もうとしたら、幻想だった
電気羊かってなかった

うちの電気羊が、「めえええ！めええええ！」と鳴くので
「あ、ごめんごめん！充電切れちゃうかな？」
って見に行ったら、幻聴だった
電気羊かってなかった

うちの電気羊が、毛をくるくるにしちゃっているので
「あ、ごめんごめん！アースしていなかったから、雷落ちちゃった？」
って駆け寄ったら、幻覚だった
電気羊かってなかった

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