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一行超短編のことを語る

過去形になってしまう話を過去形で書きたくなくて書けないでいる。

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思い出しながら描いた君の笑顔は、こちらを向いていながら違う誰かを見ている。

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彼の喋る言葉が理解できずに、トーストをかじると、はちみつがじわりと喉に沁みて、少し落ち着いた。

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いつか出しそびれた手紙には宛名だけが書かれていて、封を切ることもせず、引き出しの奥の奥へと、再び押しやった。

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荒れた唇に塗るものが何もなく、仕方なしにバターを塗ったらお腹が鳴って眠れなくなった。

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ようやく好みの味に落ち着いた煮物をしみじみ味わい、この成長の過程を見守る人のないわびしさを奥歯で噛み締める。

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「あなたは自分が聞きたいように言葉を捻じ曲げてしまうから、私の言葉を無駄にしないために、これ以上何も言わない」

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少し太って、はまらなくなった指輪を、せいせいした気持ちで燃えないゴミの袋に押し込んだ。

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彼らの顔が歪んでいたのは、私のレンズのせいだった。私の顔が正しく見えたのは、私が歪んでいたからだった。

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扇風機の風にかき混ぜられるお線香の煙の中で、相変わらず物足りない味の氷スイを口に運びながら、祖母を偲ぶ。

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ぬるいコーラのもの悲しさで喉を湿らし、息の根を止めた冷蔵庫とその中で眠る食物の今後に思いを馳せる。

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悪夢の後味をコーヒーでまぎらわす。

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18年前、敵意むき出しで私を睨んだその瞳は今や白く濁っていたが、映らぬ私を捉えると、しっぽをパタリと振った。

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裏の公園に埋めた祖母の指輪が目を出し、夜な夜な私を見つめるので、窓辺に黒い下着とキウイフルーツを供える日々。

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昨日のことのように思い出せる日々だけど、黄ばんだ解答用紙に書かれたへたくそなアルファベットを私は覚えていなかった。

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無意味な言葉はざらざらと口からこぼれてゆき、部屋はあっという間にひじきの海のようになった。

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せめて窓があれば、壁の色くらいはわかるのに。

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ようやくシャワーを浴びれた嬉しさと、気の抜けたビールの悲しさがあいまって、テレビの灯りの中でコップを抱えてボロボロ泣いた。

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夜風がキャラメルのようにのびるので、桜の下でぼうと突っ立ったままなかなか動けない。

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カップラーメンのお湯を沸かすことすら億劫で、賞味期限の切れたヨーグルトを食べたら、体の芯からつめたくなった。