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一番最初に住んでいた家のことを語る

二軒つらなった平屋の長屋で、表通りから見れば奥側の、日当たりの悪い家だった。玄関の引き戸は建て付けが悪くて、鍵は先端が螺旋状になっている金属棒を鍵穴に差し込んで回転させるタイプだったと思う。間取りは六畳二間、トイレはくみ取り式。玄関を上がって最初の部屋の右手に次の六畳間、正面奥に物干し場兼庭に出るガラス入りの格子戸がある。ふたつ目の六畳間には家の外に増設された物置に下りる戸口があって、その戸口を抜けた先のトタン屋根と裸電球がひたすら暗い物置のさらに奥に、小さいお風呂場があった。物干し場は六畳より少し大きい、家屋の間取りからするとバランスの悪い広さ。かつてバルコニーであったことを思わせるすごく錆びた鉄柵とところどころ朽ち果てて穴が開いた床板、右の奥の隅の床板がほとんど落ちた場所に立派な枇杷の木が立っていた。