id:happysweet55
自分(id:happysweet55)のことを語る

2009年の夏。30歳のぼくはニューヨークにいた。小説を書くために。
多くの人が憧れるように、ニューヨークは明るく自由の匂いがした。
上手く言えないけれども、街中がカラッとしていて、良い匂いがしていた。
ぼくが滞在していたチェルシーというブロックには古いレンガ造りのビルが並び
家々の前には花が飾られ、常に気持ちい風が木々を揺らしていた。
たった一週間だけれども、昼夜なく頑張って立ち上げた大きな仕事の後、
ご褒美に貰ったその時間をぼくは小説執筆にあてることにした。
公園とカフェと安宿の間を、ひたすら歩いては書き、ひたすら書いては歩いた。
なぜ、ぼくはここにいて、こうしているのかを確かめるように。
当然だけれども、小説は上手く書けなかった。人間は幸福の最中に、人生を正確に眺めることなんてできないのだ。
深夜にホテルに帰って、ぼくはよく途方に暮れて、ニューヨークの空を眺めていた。
ビルとビルの間に沢山の蛍が舞っているのだ。まさかマンハッタンにそんなものがいるとは思わなかったけれど、
本当に沢山の蛍がいた。
「ぼくの20代は"義"を果たすためにあったのだ」ということを思い出すたびに、
ぼくはその蛍のことを思い出す。誰からも忘れられ、知られていないところで、
ぼくは小さな灯りを灯し、精一杯生きていることを証明しようとしていたのだ。