海も山も「見なかった」から「空の民」は「勝った」のだ。つまり見たって判らん程に見ない事がそのバカさが彼らの「才能」だったのだから。
(中略)
古代、そう身体感覚なしには生きられない時代、海山の脅威の中で、けしてそのように考えないとしたらやはりそれは「能力」だ。でもそれはカギカッコ取ると、嫌な能力ってやつ。また山が低かったから、一五二、だから怖くなかったのでは。権力とは何か自分に甘いこと。
そして自分に甘いというこの感覚が、筆者的には国家の起源みたいに思えるのだ。国家とは何か、空、民、上、無痛、「無欲」、「空白」、「ゼロ」、「リセット」。ああ、国家とは何か。ゼロにする事だ。例えば各部族の、歴史、特異性、いや何よりもロジックや抽象化の過程さえも、ゼロにして……。
(『人の道御三神といろはにブロガーズ』笙野頼子)