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超短編のことを語る

さっきからよりによって本降りになってきた。もうちょっと話ていたい気がしてたのだけど、雨音がちょっとうるさい。でも、決して不快ではない。不快ではないんだけど、帰りのバス停でのバス待ちを考えると億劫なのだ。そのことを思い起こさ説程度の雨音だった。その雨音が気になったのか、一瞬こちらの心がここにあらず、というのを感じ取ったのか、相手も窓の外をちらと見た。そっか、あめか、とつぶやいたあと、こっちをみて確認するようにいった。
「雨が降ってきちまってるね」
こんなことなら早く帰してあげればよかったかな、けっこうしゃべっちまって、ごめんなー、なんていいつつ、傘があったかな、なんて玄関にむかって歩き出した。
「あー、どうしよ」
傘がない、とつぶやいた。あることはあるのだが、一本だけ。それを借りてもいいのだけど、そうするとこの家の住人が雨のあいだはでれない。もしくはバス停そばのスリーエフまで相合傘か。しばらく沈黙が支配したあとに、相手がいった。
「すまん、雨やむまで、引きとめていい?」
ぜんぜん申し訳なさそうでない顔になにもいえなくなって、なんとなく「ははは」と笑うしかなかった。雨が降りやまなければいいのに、なんてのを飲み込んで。

たぶん、同じことを考えてたのかもしれない。
雨降りも、悪くない。