村上 人間は病んでいれば、だれにでも物語をつくる能力が、潜在的にはあるということなのでしょうか。
河合 それはむずかしいところで、人間はある意味では全員病人であると言えるし、またいわゆる病んでいる人であっても、それを表現するだけの力がないと形になってこないんです。病んでいる人の場合は、疲れとか恐ろしさとか、そういうのがダーッと出るばかりで、物語にまでなかなかなってこないということもあります。
村上 芸術家、クリエートする人間というのも、人はだれでも病んでいるという意味においては、病んでいるということは言えますか?
河合 もちろんそうです。
村上 それにプラスして、健常でなくてはならないのですね。
河合 それは表現という形にする力を持っていないとだめだ、ということになるでしょうね。それと、芸術家の人は、時代の病いとか文化の病いを引き受ける力を持っているということでしょう。
ですから、それは個人的に病みつつも、個人的な病いをちょっと越えるということでしょう。個人的な病いを越えた、時代の病いとか文化の病いというものを引き受けていることで、その人の表現が普遍性を持ってくるのです。
[村上春樹、河合隼雄に会いにいく]