MAJOR CRIMES ~重大犯罪課 <ファイナル・シーズン>最終回
急死したシャロン・レイダー警部に代わって重犯課を率いる老刑事プロベンザは、連続強姦殺人犯にして脱獄囚、シリーズ最大の悪玉であるフィリップ・ストローを、単独で追い詰める。プロベンザはストローを誘導して背後を取り、拳銃を構える。ストローは抵抗を諦めたかに見える。
ここで視聴者が知っていることは三つ。
- プロベンザはストローに殺意を抱いている。
- 相手が犯罪者でも発砲が不必要だったと判断されれば責任を問われる(シリーズを通して繰り返しそのことは扱われており、この回でもタオ警部補が共犯者を射殺する場面をすでに見ている)。
- ストローは靴に小型拳銃を隠し持っている。
プロベンザは射殺を思いとどまり、手錠をストローの足下に投げて、自分で腕に掛けるように要求する。視聴者は、ストローが手錠を拾うフリをして、隠した拳銃を出してくれればいいと思う。そうすれば、プロベンザは正当にこの不快な悪玉を射殺できる。しかし一抹の不安がある。これまで一貫して狡智な悪人だったストローが、そんな死に方を選ぶだろうか。
ここでストローにとっても意外な銃声が響く。プロベンザの行動を察知したラスティ・ベック。ストローの死体遺棄現場を目撃したことから事件に巻き込まれた若者。五発の銃弾を受けてストローは死ぬ。これはまずい。正当防衛ではない上に、過剰攻撃だし、「銃は最後の手段」だという養母シャロンの教えにも反する。プロベンザはストローの拳銃を確認してひとまず安堵し、「撃ったのはおれだ、おまえじゃない(ということにするぞ)」とラスティに言い聞かせる。
物語の結末としては丸く収まらない。だけど、手練れの犯罪者を前にして、賢いが未熟で弱い若者ラスティに完璧な対応をさせれば、これまで誰にでも欠点や弱さがあることを描いてきた作品の人間的リアリズムに反して、ヒーローを誕生させる結果になったかもしれない。
悲しいけどこの筋書きには本当らしさがある。人の理性は咄嗟の判断を司ることができない。
ラスティはプロベンザのおかげで罪を免れて、検事局に進むことを語る。それはきっとラスティが、自分の行為と、正義の執行という仕事との間で、矛盾を感じるという未来を予想させる。正直なラスティはきっと永く胸の内に真実を仕舞っておくことはできないだろう。だからサンチェスが最後にラスティに贈った「Dr.ジョー(精神科医)はまだ必要だ」という言葉が通り一遍ではない重みを持つ。ドラマが終わっても片付かないものが後に残る。
視聴者は、このシリーズが描いてきた、現代社会の複雑さという問題に押し戻される。だからこそドラマの最後くらいは大団円で終わるべきなのか、それとも作り物には人を現実に帰す責任があるのか。
配信や放送がまだこれからの所もあるので、もう一回観てみたい。