これは今でも当てはまると思う。
柄谷)夏目漱石が、『三四郎』のなかで、現在の日本人は偽善を嫌うあまりに露悪趣味に向かっている、と言っている。これは今でも当てはまると思う。
浅田)理念は絶対にそのまま実現されることはないのだから、理念を語る人間は何がしか偽善的ではある…。
柄谷)しかし、偽善者は少なくとも善をめざしている…。
浅田)めざしているというか、意識はしている。
柄谷)ところが、露悪趣味の人間は何もめざしていない。
浅田)むしろ、善をめざすことをやめた情けない姿をみんなで共有しあって安心する。日本にはそういう露悪趣味的な共同体のつくり方が伝統的にあり、たぶんそれはマス・メディアによって煽られ強力に再構築されていると思いますね。
「歴史の終わり」を超えて(中公文庫)1999年