『よみがえるロシア』五木寛之
今読むべき本がわが本棚にあった!
ロシアとあるけれど、主題はロシアとともにある世界の全てと言って良いだろう。1991〜92年頃に行われた対談の記録。
ロシア的世界は、文明社会の始原的なるモノを多く抱え込んでいると思う。一人の人の中にも自然的なものと文明的なものが共存しなければならないように、この地球にはロシアがある。ロシアの中にもヨーロッパがあり、アジアがある。キリスト教も仏教もイスラム教もある。これは歴史的に言えば、農耕的世界と遊牧的世界が隣り合い対立し共存し絡み合ってきたことの、遺存であり現在だ。
冷戦期にはソ連が閉鎖的だったために、世界の他の部分はロシア的世界との暮らし方を切実に考えずともやり過ごせた。ソ連の解体はロシア的世界を全世界の中に迎え入れることで、より望ましい形の平和を人類が得るための機会でもあった。この本の時期、ソ連の崩壊から新生ロシアの始まりは、難しさとともに、旧世界に明るい可能性を感じさせた頃でもあった。でも私たちは進歩することよりもむしろ数千年の繰り返しを踏むことを選んだ、このおよそ三十年をかけて。
近代西欧型の文明、その思想だけでは世界は割り切れない。スペインでさえヨーロッパの枠に収まらないのに、どうしてロシアが理解できるものか。そしてロシアが分からないということは、ロシアとともにある全世界に対する不理解でもある。
五木寛之は言った。
確かに、記憶を全部捨ててしまった人間のほうがそれは速いですよ。速いけど、それは足は宙に浮いています、どう考えても。それは必ず記憶に復讐されるでしょう。つまり、われわれは今、記憶に復讐される時代に立っていると思います。
対談の相手は山内昌之/チョールヌイ・サーシャ/三浦雅士/ブラート・オクジャワ/中村喜和/吉岡忍/ルイビン・ヴィクトール/工藤精一郎/木村浩。
文庫版まで絶版なんて!