@kodakana_ship10
プロレスのことを語る

「自分が弱いと思うから練習する」アントニオ猪木

我々はアントニオ猪木について語るとき、必ずしも「猪木さん」とはいわない。猪木、である。決してぞんざいに扱うわけではなく、「アントニオ猪木」というその名前だけで尊称になるような存在だと理解しているからだ。

かつてストロング小林は、国際プロレスから新日本プロレスに移籍すると、すでに四十がらみの猪木がいつまでも練習をやめないので、自分もおいそれと上がるわけにはいかず、練習のしすぎで体を壊し、引退につながったと語っていた。インタビュー記事でそう読んだ憶えがある。

どんな分野でも基礎となる練習、訓練といったものは、地味なことの繰り返しであり、それ自体がおもしろいものではない。つまらないように思える基礎を、どれだけしっかりとできるかで、応用の幅に差が出てくる。猪木の天才も練習に支えられていたことは疑いない。

今から15年ほど前、プロレスの「冬の時代」に挑戦した猪木は、雑誌のインタビューで次のように語った。

猪木 (略)自分の弱さを知らない人もいるかもしれないけど、俺は自分の弱さを知ってますよ。
 ――自分が弱い人間だと思うこともあるんですか?
猪木 人とどういうふうに比べていいか分からないから。ただ自分自身で感じるだけで。でも、だからこそプロレス的に言えば、弱いから練習するわけでしょ。

『Gリング』Vol.001

自分が弱いと思うから練習する……。猪木ほどの人にこう言われては、誰でも努力しないわけにはいかない。

他方では長州力をして「プロレス以外は何をやってもダメだけど」と言わしめるような面もあった猪木だが、もちろん完璧な人はいないもの。猪木の闘魂はこれからも永く鑑として曇らせずにおきたいものです。