月の想い
これから南中する昼の月が満ちるとき、約束の日がやってくる。
あの約束が果たされることを、毎日、思い出させてくれる月の横顔が
うれしそうにも見えるし、悲しそうにも見える。
満ちる日を境に、月は翳ってゆく。
忘れられていくことを月は知っている。
再び思い出されるのは14日後。月が姿を消したことに、誰かが気づく。
約束は果たされて、忘れられる。いつも、そのくり返し。
ようやく陽は沈み、騒がしい昼が終わると
ニュクスのサロンで、月が楽しそうにほくそ笑む。
「明日から、あなたはわたしを忘れていくのよ。
やがてわたしの輪郭はぼやけて、ニュクスのサロンに来ても、
あなたはわたしが見つけられない。
その姿を、わたしは眺めているの」
あれほどおどけて笑い声を転がす、アポロンの庭とは大違い。
『ニュクスのサロンじゃ、 約束は永遠に果たされないんだ!』
そんなふうに腹を立てて、
そんなふうに思い込んで、
悩んで、そして悲しんで。
「まあ、それはたいへんお気の毒」と月は笑う。
「だって、おかしいでしょ?
朝になれば、あなたは、あなたの願いが
昨日と同じようにうまくいっていることに、
また、気づくというのに」
ニュクスのサロンには、今夜も、微笑む月のぼやけた輪郭が浮かんでる。