あの人とわたし -03-
「ゆっくりでいいんだ。
わたしはここで待っているから。
そして、わからなくてもいいんだ。
きみが何をわからないのかを、わたしに伝えてほしい」
——もしかしたら、わたしは怖いのかもしれない。
「知ることがかい?」
——そう。知ることが。そして、認めたくないのかもしれない。
わたしが今、怖がっているということを。
「認めたら、どうなってしまうんだい?」
——わからない。
でも、泣いちゃうかもしれない。止めちゃうかもしれない、こうし
て会うことも。きっと、そうなっちゃう。そしたらどうしよう。
「それでも、きみは変わらないよ。わたしも変わらない。
何も変わらないさ。
怖がっていても、泣き出しても、会うのを止めても、ね。
きみはきみ、わたしはわたし。ずっと、存在しつづける。
恐れも、涙も、不安もすべて。ずっと、存在しつづける。
そのままでいいんだ。変えなくていい。
まして、消さなくてもいい」
——このままで、いいの?
「ああ、そうだよ。それに、とても自然なことだよ、心が動くのは。
今、ここで、きみとこうして話しているこの瞬間にも、心は動いている。
恐れも不安も悲しみも、そのままで、いいんだ。
喜びや楽しみと同じようにね。
わたしが怖ければ、ただそう伝えればいい、いつでも」
——わたしは、いつかあなたに逢えるかしら?
「もちろん、逢えるさ。
これから何が起こるか怖がっていてもいいんだ。
恐れといっしょにいたって、きみは何一つ変わらない。
きみは、そのままのきみで、いつだって、
わたしと逢うことができるんだよ」
- ------------------------------------------------ ある日、あの人がそう言ってから、わたしはあの人に会いに行って
ない。なぜって、わたしは恋人と逢うようになったから。あの人と
の夢の会話を、今でもときどき懐かしむ。だけど今は、会ってない。
わからないことがあると、恋人に逢いに行って、尋ねているから。
ただ、あの人のことを、まだ恋人は知らないけど。