愛煙歌01
峰の製造中止について関内のタバコ屋さんでは
3~4か月前から固定客に告知してたそうで、たしかに貼り紙もあった。
「お知らせしてませんでしたか、すみません」と恐縮する美しい看板娘に
「いえいえ、ふだんは東京にいるもので……」と語尾を濁しながら複雑な気持ちになる。
思えば、今つきあっているタバコ屋さんは今のマンションに引越してきて
近所に珍しく「峰」が入ってる自販機がある!と喜んでいたのも束の間、
自販機から引き上げられてしまい、理由を尋ねたことからつきあいが始まった。
峰を愛飲する学習院の先生がいて
「仕事をしている夜中に煙草が切れたらご不便でしょうから」と自販機に入れていたものの
その先生が亡くなって、まさかほかに利用している人もいないだろうと抜いたとのこと。
「そう、あんたも峰なら、入れておこうか」と親仁さんは言ってくれたが
わたしは自販機に入れてもらうかわりに、カートン買いするようになった。
以来、100円ライターには困ってないし、タスポもつくっていない。
タバコのほかに、女将さんの絶品手作り具だくさんサンドイッチやお弁当、
お菓子やジュースも扱う、ほんとうの街のタバコ屋だ。
親仁さんと女将さんはたまの休みに夫婦で旅行するのが好きなシルバーおしどり夫婦。
お互いに相手を「働き者だから」「きちんとしてるから」と賞賛しあい、
二人とも「ナイショだよ」とサンドイッチをおまけしてくれた。
親仁さんには運転のコツを教わり、世間話も福島の父の話もいっぱいした。
そんな親仁さんの御加減が悪くなり、「無理をしても……」と店を閉めたのが、昨年の2月。
営業してるのは自販機だけになった。
「でも、アンタは裏から回っていらっしゃい。峰子さん、取っておくから」
というお言葉に甘えて、カートン買いと世間話は続いていた。
ところが間もなく親仁さんが入院して、それから、あれよあれよと言う間に5月に他界。
今も買っているけれど、タバコ業界の動向など
「早くうちの人、迎えに来てくれないかしら」という女将さんの
目にも耳にも入らなかったとしても不思議はない。
何かが終わるときって、こういう香りがする。
そして、終わりと引き換えに、また何かが、はじまる。そんな香りだ、峰は。
apoのことを語る