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apoのことを語る

驚愕の酢豚を「うめー!パンチあるー!」と紹興酒をちびちびやりながら、腐乳談義をしはじめた頃、お店の前で「これから中華街で夕飯にするところ」などと携帯で話しているらしき中年男性の声が聞こえてきた。女性店員に誘われて店内へ、アタクシたちの隣のテーブルに座った。
50代半ば過ぎだろうか、スーツにノーネクタイで、ハンズフリーの携帯のイヤホンマイクをかけっぱなしで、注文の合間にも通話してる。2名分セットされたが、一人で通話をつづけ、頼んだエビのピリ辛揚げを食べながらも「うまい、魚介のコレステロールはいいコレステロール、お袋がそう言ってた」と電話の向うへ話してる。「紹興酒の香りがいいね。ああ、オレはもう呑めない。ごはんも子どもの茶碗くらい」とも。

ネイティブたちのマンダリン会話で活気溢れる店内でも、さすがに彼の独り言状態は異様らしく、奥の席のテーブルで「モバイルだろ……」とひそひそしてる。
お節介なアタクシはひと言注意したくなり、通話の邪魔をする気まんまんで「すみませーん、お茶くださーい」と店員さんに声をかけた。そしたら、店員さんじゃなくて、腐乳の解説してくれた人なつっこいシェフがわざわざ来てくれて、お店の話、それから料理談義になった。(もちろんセールスもあった)
 
そんな話の流れで「皮がぱりぱりの鳥の丸焼き(料理名失念)1500円もオススメ。2人で多ければ半分でも出せるよ」「いくら?」なんて会話に、隣のハンズフリー携帯おじさんも混ざってきた。自分の食べてるエビを「おいしいよ、これ」とシェフに伝え、シェフは「ありがとうありがとう」と帽子をとって、頭を下げてぺこぺこお礼してる。するとハンズフリーおじさんが、シェフの持ってた丸鳥の写真を示しつつ「半分でもいいなら、これ頼むよ。それで、このエビ多いからいっしょに包んでくれない?」と、オーダーした。

通話はいつの間にか途切れたようだ。
キッチンに引っ込んだシェフに代わって、アタクシたちがおじさんとの会話が続く。
「ああ、これは明日のお昼。都内じゃうるさくて車から離れられないでしょう。だから、車内でね」
「仕事? 観光バス。今朝、蒲郡から富士山やって、中華街でお客さん降ろしたところ。うちは外人客向けで楽よ。日本人ツアーだと1日700kmくらい走るとこあるもの」
「今? 5泊6日。うーん、もうすぐ。明日は8時半から」
「飯? 中華街のまん中じゃあ、高いしマズイしでしょう、だからこういう外れでいつも食べるの。(1軒目で巻揚食べた)雲龍? ああ巻揚おいしいよね。あの店もうまい。あと、何ていったかな、銅像の近くの○○だったかな、あそこもうまいよ」

陽気なおじさんだけど、なんだかちょっぴり淋しかった。おじさん、お仕事、お疲れさま。
一人飯しながらモバイル世間話してた陽気なおじさんを電話相手から取り上げて、仕事の話、中華街の話を聴けてよかった。
えらそうに苦言しないでよかった、と思った9時過ぎ。
今朝、起きて、再びおじさんのことを考えた。

カオスな喧噪とシェフのごはんの味は、
おじさんの疲れと淋しさをちょっと肩代わりしてるのかな。
ハンズフリーのイヤホンマイクを耳に
今朝8時半から働いているだろうおじさんが
安全運転で5泊6日を終えられますように。