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勝手に引用のことを語る

 医師は深く息をつき、模範的な落ち着きをもって言ったーー
「全部話してください」。
 そこで侯爵は話したーー司教のもとへの訪問、祈りたいという衝動、盲目的な決断、不眠の一夜。それは、自分の心を甘やかすことなく、すべての秘密を包み隠さずさらした旧キリスト教徒の降伏宣言だった。
「神の命令だったと確信しています」と彼は最後に言った。
「つまり、信仰をとりもどされたということですね」とアブレヌンシオは言った。
「人はけっして、完全に信仰を失いはしないんです」と侯爵は答えた。「いつでもかすかな疑いが残っているんです」。
 アブレヌンシオにもそれは理解できた。神を信じなくなると、それまで信仰のあった場所に消しがたい傷痕が残り、それが信仰を完全に忘れることを妨げることになる、と彼もずっと考えてきたのだった。  (pp.93-94、『愛その他の悪霊について』 G・ガルシア=マルケス)