「人間、やっぱり情でんなぁ」竹本住大夫（聞き書き）
一昨年引退した文楽の大夫（人間国宝）の住大夫さんの引退前後の事情や、子供の頃のこと、若い頃からの修行や苦しい時代のこと、いろんな先輩たちのこと等々を聞き書きでまとめたもの。
・文楽は今たいへんな状況だけど、古い人たちはもっとずっとたいへんな状況を耐え抜いてきはったんやなあ。
・そして今も厳しい状況は変わらないから、文楽の人たちはみな無駄遣いなどせず＂始末＂して、劇場への行き帰りも体の動く限りは電車でという習慣で、それどころか東京大阪の移動でも支給される交通費は大ベテラン、大御所の住大夫さんでさえ新幹線の普通車の分だけやって。人間国宝なのに！
・芸事の修行はどんなものもたいへんやけど、浄瑠璃はなかでもたいへんそう。
・今の後輩たちに対しては、芸そのものや芸に対する姿勢なんかについて厳しいことばかり言うてはるけど、最後のところで「本のなかでは、あかんところばかりご紹介しました文楽の後輩や弟子たちですけど、こんなに裕福になった日本で、ほかの生き方も職業もいくつもあるのに、わざわざ「芸はむずかしい、修行は厳しい、金は儲からない」の三拍子そろった文楽に入ってきた、奇特な人間たちです」と温かい目を向けて応援を願ってはる。
・浄瑠璃の聞きどころのポイントが少しわかったような気がするので、今月の観劇が楽しみだ。