「そのとおりよ」ミス・ヒンチクリフが大声で叫んだ。「それに、リトル・パドックスの客間のドアも自然に戻るようになってる。こういうスウィングドアじゃないけど、ずっと開きっぱなしにはならないわ。だからレティ・ブラックロックは、ハイストリートのエリオットの店であのとびっきりすてきな、大きなガラス製ドアストッパーを買ったのよ。はっきり言って、あの人がわたしの鼻先であれをかっさらってしまったこと、絶対に許さないわ。わたしはあの老いぼれ相手にうまく値切っていたところだったのよ」（p.29）
「わからないわ」「あら、わかってるわよ。腹が立つわね、マーガトロイド。あなたは自分がどこにいたかわかってるでしょ？　ドアの陰にいたのよ」「ああ、そうね、そうだったわ。ドアが開いた拍子に、ウオノメにぶつかったの」「ちゃんとしたお医者さんに行ったほうがいいんじゃない、自己流に手当しないで。いつか敗血症になるわよ」（p.349）

というわけで、300頁経てなおドアストッパーの話をしているヒンチクリフとマーガトロイドが、私は好きでした。
マープルはこの村ではよそ者なので、ほぼ単独行動をしています。彼女が観察して、証拠を集めて、推理して、ということを相棒と繰り広げるような場面はなく、「今このとき、マープルどこでどうしているのかな」という感じなのですが、その代わりに事件現場に居合わせた彼女たちの推理シーンが時折挿入されます。そのシーンがなんとも愛らしい。
ヒンチクリフという人は目の前で不可解なことが起こったらそれに筋を通さないではいられない、片付けたがりで、せっかちな、いい人。マーガトロイドは穏やかで、優しい、いい人。二人でああだこうだ言いながら、ひょいひょい話がずれていってしまうのがおもしろかったです。おすすめです！