犬が排泄だけでなく、摂食が難しくなってきた。フォークでチキンの缶詰を口もとまで運んでやる以外、自分でご飯が食べられない。その状況が悔しくて、犬はステンレスの餌入れを蹴飛ばしたり、歯の痕がつくまで噛みつくなどの愚行を繰り返していたのである。小屋から抱き上げるたびに小さく軽くなる犬を見て、人もこうやって死ぬんだろうなと思う。
「そういう時にどうしてるんですか?」とぼくは沢山の死を看取ってきたお医者さんに訊ねたことがある。ぼくは犬一匹の死でさえ耐えきれない。「いつもより見に行くようにしています」とお医者さんは恥ずかしそうに俯いて言った。その時には、その言葉の意味がよく分からなかったのだけれど、今はよく分かる。死に際して必要なことは側にいてあげることなのだ。
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