零細個人事業主が名刺を一新しようと思った話。
名刺のファイルを開くと、顔写真やQRコードで飾られた同業者の華やかな名刺が並びます。
流行なんでしょうが、自分が同じことをするのには抵抗があります。
かといって、そうでないものを作っても、納得できた例はなく、
つい名刺を切らしたままにしがちです。
どうにかして持ち歩きたくなる名刺を作れないものか
思案していたところ、ふと思い出したのが、ある人から頂いた活版印刷の名刺。
名前と連絡先だけの表記に、シャイな人柄が表れているようで可笑しかったのですが、
実直さに上質さが重なって、あとからじわじわと好印象が滲んできたのです。
ネットで調べてみると、なんと地元近くに活版印刷所がある…!
自転車に乗り勇んで出かけ、からりと引き戸をあけてお店番の奥様に用を告げると、
「あらあ、うちはもうやってないの。
おじいちゃんがやっていたんだけどね、機械が壊れちゃって。
もう直せる人もいないのよ。だからやめちゃおうってことになったの」
硝子戸の外では、早春の光をうけて梅の花がひらき、河津桜が大きく蕾を膨らませています。
桜の頃には処分するのだという印刷機と活字の棚を見せてもらいながら、
終わっていく時代と、自分が生きてきた年月の長さを思いました。
ここがダメなら街中の別の印刷所でと見当はしているのですが、
私が働いている間、作り続けてもらうことができるのでしょうか…。