翌日父と阿蘇の峠でお茶を飲みながら話をした。
「きのう鍾乳洞で会った男の人に食事どうかって言われた」
「そいつは変態だ」
「えー!」
「鍾乳洞で知らない女に声をかけるような男は変態」
「はてこがカメラ渡して写真撮ってくださいって頼んだんだよ」
「じゃあおまえのせいだ。おまえ変態女だと思われたよ」
「えー!」
急に声をかけられたと思ったんだけど、向こうは誘われたと思われたんだねえ。
これがはてこの人生ただ一度ナンパ経験です。場所は鍾乳洞で、相手は仕事帰りで、服はツナギ、足元は白いゴム長靴で決めていました。
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くたびれ はてこのことを語る
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「お近くですか」
「いえ・・・生まれがこちらで・・・」
「このあとの予定は?」
「あの、父が五時までに帰って来るように言っているので・・・ごめんなさい」
「ああ、そうですか」
男性は後ろで小さく「こんなツナギに長靴でナンパって言うのもね・・・」と決まり悪そうに笑っていた。彼は何も悪くないのだけど、いまここで灯りが消えたらどうしようと未知の恐怖を感じながら出口に向かった。出口につくなり男の人は早足で立ち去った。
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一人で誰もいない鍾乳洞に入ったことがある。
入り口で借りたサンダルを履いて水をばしゃばしゃはねかしながら奥に進む。
「いまここで電気消えたらどうしよう」と考えて怖くなっているところに人が来た。
薄緑色のつなぎを着て長靴を履いている。心細さの反動で疎遠の親戚に会ったかのようにうれしくなり、カメラを渡して写真を撮ってもらい、出口まで前後に並んで話しながら歩いた。
近所に住む役所勤めの男性で、車に積んだマイ長靴を履いてときどき鍾乳洞に来るのだそう。へー、そうなんですかー、鍾乳洞楽しいですか、と言いながら道々何度か写真を撮ってもらった。鍾乳洞好きの知られざる生活にとても興味が沸いた。と、とつぜん改まった調子で「このあと食事でもどうですか」と言われた。
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妹の頭に恋愛じゃない結婚というのはない、ということが改めてよくわかった午後だった。
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「うまく行く結婚て、片方が努力してんだよね。恋愛スキルが高いの」
「あたしそれは違うと思うな。結婚が続くかどうかは恋愛と違うよ」
「恋愛スキルだよ。大島美幸も鈴木おさむの恋愛スキルが高かったから続いてるんだよ」
「片方じゃなくて双方の努力だと思うよ。それに"相手がよかった"っていう考え方って、自分の側には出来ることない、相手次第っていうことでしょ。それは違うと思うな」
「おねえちゃんとこだって、もちのすけさんだったから受け止められてると思うでしょ?」
もちのすけに、恋愛スキルなんてものはない。
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先日美容院へ向かう途中、駅のベンチで隣に座ったおばあさんがかっこよかった。
レスポのバッグ、スポルディングのウォーキングシューズ、アニエスbの眼鏡をシルバーで揃え、黒のパナマ帽をかぶっていた。すてきですね、と声をかけたところ、昔はパタンナーの仕事をしていて、現役引退後去年まで自宅で洋裁教室を開いていらしたとのこと。一人暮らしで現在80歳。お名前と電話番号と住所を教えていただく。今度遊びに行く約束をした。
という話を妹にした。
「よかったじゃん。そういうのがナンパだよね。会話が成立して知り合うみたいな。しょっぱなから歳聞く男ってなんなの」「ダーッて走ってきてさ、『いま何してるの?』って、みりゃわかんじゃん。急いでんだよって言う」「そんで断ったらまたダーッって端ってほかの子のとこ行くの」「キャッチかと思ったら、待ち合わせしてる間見てたら、ナンパなんだよね。引っ掛かるかっつーの」。
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「でも今度、上野定期演奏会オフっていうのに行くかもしれないの。調子がよかったら。はてなユーザーの人のお嬢さんがね、大学で演奏会をするのを聴くオフなの」
「へえー」
「男の人も女の人もいろいろ来るオフなんだって」
「ふーん」
妹はモケラのような相槌を打ちながら"プツ"という顔で笑いながら携帯を見ていた。
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「主婦はいますっごいモテるんだよ。主婦だったら後腐れないし、揉めても『あんた旦那いるでしょ』って言えんじゃん。会える時間もある程度決まってるから、二股三股するにも予定も立てやすいし。Greeなんてそんなんばっかだよ」「主婦は主婦でやたら胸元強調した写メのっけて、そこに男が群がるみたいな。友だちなんか結婚して実物すっごい太っちゃったんだけど、光で飛ばした写メとか目だけとか唇から胸元だけとかそんな画像どっからか拾ってきて乗せててさ。そんでいちゃいちゃコメント返しあってるの。やばいよあいつ。痩せたら会いたいとか言ってるし」
「あたしいろんな人と知り合って世界を広げたいんだけど」
「うん、でも向こうはそういう"出会いを求めてる主婦"だって思ってるよ」
がーん。
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「女は特に、やったらつきあってると思いがちじゃん。でも男はそうは思ってないんだよね」
「え?」
「だから告白されたと思ってるけど、ヤリモクだったりすんじゃね?」
「ひとみちゃんみたいに?」
「ひとみちゃん?」
「内田春菊の"ストレッサーズ"で俗物はじめと付き合ってた・・・」
「ああ、さなぎになっちゃったひとみちゃんね、そうそう」
体を求められて告白されたと思い込んでる女の子は多いんじゃないか、というのが妹の見解。そういうときにすきだ、愛してるとかいう男の人は多いだろうね。
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妹とスタバでお茶飲んできた。妹のポケットにはいつも衝撃的な話題が満ちている。
「てか、告白されたっていってもどのレベルかってことだよね」
「レベル?」
「やっただけなのか、付き合ったのかっていうの、あるじゃん」
あー、お姉ちゃんちょっとそういうのわかんない。
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ていうか、意気地なしだ。勇気不足は。
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恥かしがりやと内気はちょっと違う。内気は必ずしも恥かしいと思ってない。
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知らない人と一緒にいるときのほうがのびのびしているのは、一貫した自分を意識しないからかもな。
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いま気がついたけど、っていうことは、あたし結構恥かしがりやだ・・・!
この弱虫!
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今日は頭の切れるみなさんの面白いネタが飛び交うハイクに、昼間からこんなに長文を書いて恥かしいです。
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すきな人とか着たい服とかやりたいことがあるとき、自分の劣等感を強く意識するんだろうな。蛙のボールペンはただただすきで持ち歩きたいけど、ブランドもののバッグや大きなロゴの入った服をもらうと、着て歩くの恥かしい。貧相な自分を意識するせいだ、きっと。
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うしじまさんの写真見てると、劣等感を刺激される人がいるだろう。女性であることを恥じてないように見えるし、屈辱を感じるような状況を恥じてないように見えるから。
劣等感の強い人は、自分が劣等感を強く感じる状況で、他の人が堂々としていると辱めを受けたように感じがちだ。また、相手を辱めることが出来ないと自分の力が弱まったように感じる。
ということで、人を劣った立場に置きたい人、外見、容姿の面で劣っていると意識している人は、うしじまさんになんだかもやっとした苛立ちを感じるんじゃないかな。だってあの人ずばぬけた美人でもモデル体型でもないの…[全文を見る]
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劣等感の強い人はどこでも恥じるだろう。これでどうだ、こんなもんだ、これでいいや、と思っている人は、あまり恥を感じないだろう。未婚者は童貞であるべきだと思ってる人は童貞だということを恥じない。誰かが恥じ入らせるには、まず童貞じゃまずいと信じ込ませないといけない。逆にいうと、人はひとりで勝手にいくらでも恥じ入り続けることができる。
これでいい、こんなもんだと思うというのは居直るのとちょっと違う。居直るというのは、恥を感じるあまりに逆切れして攻撃的になることだ。それでいいと思ってない人がやる。
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さいきんやっとご飯を作ることに関して「こんなもんか」「これでいいや」と思えるようになった。一時期部屋の片付けとインテリアについても考えあぐねて、わかった、と思えるときがきて、それから「こんなもんか」「これでいいや」と思うようになった。
いま誰かに、家庭料理はこれじゃダメだとか、インテリアはこういうのがいいんだと言われても、へーと思うだけで恥は感じないと思う。
でも、料理や仕事や収入や家事に関して、これでいいのか? と感じている人は、指摘されたり、目覚しい成果を挙げている人を強く意識すると恥を感じる。恋愛や性愛もそうなんだろう。「こんなもんだ」「これでいいや」と思えるまでは。
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だとしたら「こんなもんか」「これでいいや」と思えた人から楽になるだろう。
こんなもんだし、これでいいものにわざわざ「恥じることはない」「誇りを持て」なんていわない。
「風邪を引いて熱を出すのは自然なことです、それを恥かしく思うことはありません。免疫を上げる体の仕組みに誇りをもつことがたいせつです」
なんていわない。でも月経についての説明ってそのノリだ。
その言葉の背後にあるほんとのメッセージが「恥かしいこと、屈辱的なこと」だと気付くから、不愉快に思うし、女性になんか生まれなければよかったと思うし、その匂いに気付いた見下したがりが寄ってくるんだろう。
/くたびれ はてこ