三日前はびっくりするような暗い顔で
「情けない亡者やもんなあ」
「地獄へ行く亡者の記というものを書いてごらん」
と言っていた。
今日は
「早くようなろうと思っとります」
「座る練習をして、立つ練習をして、歩く練習をしようと思っとるよ」
といつもの祖父らしい穏やかな表情で言っていた。
「よくなったら何がしたいの?」
と聞いたら
「何ということもないよ。みんなにお別れの手紙を書かなならんと思ってね」
と言っていた。来年98歳になるまで生きると言っていたのに。
祖父が決めたときに終わるんだろうと思うけど
そのとき安心して満足して幸せでいてほしい。
一方実母ちゃんの母である祖母98歳は末娘宅の離れで未だ自炊している。
「年寄りを甘やかさないでください」
が口癖。洗濯もこだわりがあって断固二層式。家政を制する者が勝つ。
祖父はもうぜんぜんむせない。あんなに喉が詰まると言っていたのが嘘のようだ。
昨日、今日手の届くところに置いた葡萄を気の向いたときに喜んで食べている。
葡萄が終わったので今度はアメリカンチェリーを置いてきた。
「ああ、美味しかった。よく食べた。食事も人がおるとずうっと胃に入っていくねえ」
いつも部屋で一人なんだよね。ずっと一緒に食事が出来たらいいんだけどな。
継母ちゃんがなんとか湯たんぽ続けてくれるといいな。
部屋に漬物樽を持ち込んで足湯をすすめたときも
「足を洗わせるなんて悪いと」
最初はひどく遠慮したので
「若者の間で大人気。サロンもあっていいお値段する」
とラグジュアリー感をアピールした。今では
「足湯か。あれは気持ちがいいねえ」
と言ってくれる。よかった。
「祖父はいま嚥下困難なので断薬が危険なもの以外はお薬をお休みさせていただきたいのですが」
と病院に電話して、ジャラジャラ出されていた薬の整理に成功。二種類だけになった。
「アンチエイジング効果の高い舌の運動がいま若者の間でも大人気」
と祖父に話し、数日前から舌をぐるぐる回すことを勧めてみた。
祖父は努力大好きでちょいちょい回している様子。真っ黒だった舌がオレンジ色になってきた。
入院中は「喉に詰まる」と水も飲めなかったけれど、今は吐くこともない。
今朝はおかゆじゃなくカシワ飯のおにぎりを出したてみた。ちゃんと食べられた。
今日はこの三日でいちばん食がすすんだ。もっとお料理上手だったらいいんだけどなー。
夕飯何にしよう。
寝たい眠りたいと思っていたのにやっとこひとりになれたらがくがくぶるぶるして起きていてしまう。
弱音と泣き言と愚痴をえんえん書き連ねたいんだけど、
「いいことも悪いことも言ったらその通りになるで」
という本をいま読んでいる関係で躊躇する。
ポジティブ思考という名の否認やネガティブ思考の大切さを思うと
一概に不快な現実を認めることが不運を招くとは思えない。
何か勘違いだと思うんだけど。でもでも。とりあえず今日はやめておこう。
甥が小学生のころ、泊まりに来るとドラえもんのように押入れで寝たがった時期があった。
深夜何度か寝息を立てて眠っているかどうか見に行った。
祖父が寝息を立てているかどうか確認しに行きながらふとそれを思い出した。
人の鼓動や寝息を聞いていると肉体の無防備さ、命の心もとなさに不安になる。
実父や実母と一緒にいると
「ああ、こんなときお母さんお父さんがいればなあ」
と、よく思う。
今日ほど辰巳芳子さんに弟子入りしておけばなあと思ったことはない。
水枕でやわらか湯たんぽを作って、ちょいちょいお湯を替えながら祖父に差し入れ。
「身体に温かいものがあるというのは、気持ちがいいねえ」
「温かいということはそこが生きておるということに繋がるもんねえ」
「心丈夫ということもあるし、特に夜、そばに誰もおらんときにこれがあると、いいよ」
大好評である。よかった。うれしい。
今日から一週間実家で留守番。明後日父が出かけたら祖父ともちおと三人暮らし。
この一週間で介護士、看護士という職業に対する尊敬の念畏敬の念は大いに高まった。
待遇がよくなりますように。
祖父が錯乱状態だという電話が入ったけどもちおが車を空港に乗ってっちゃって足がない。
バスと電車で行くしかない。片道二時間。明日は実家にお客さんがあるから泊まれない。
もちおは明日も仕事だからワイシャツとスラックスを洗ってアイロンかけて干さねばならない。
動揺するし動転するし悲しいしやりきれないし冷静にならなくちゃと思うけど急がなくちゃ。
ああもちおがいたらな。話をするのにな。
せめてもちおが車を置いていってたらさっさと動けるのに。電車で行けばいいのに。
片道二時間か。帰りの電車とバスはあるのかな。ていうか面会時間終わりそうだ。どうし…[全文を見る]
お父さんっ子の実母はかつて最愛の父の危篤に立ち会ったとき
「姉妹からは薄情だと責められたけど、どうしてもそばにはいられなくて」
顔を見るなり「仕事がある」と嘘をついて逃げてしまったことがある。
日本橋付近をふらふら歩きながら、現実を受け止めかねていたと話していた。
君らは似たもの同志なんだね。
だからうまく行かなかったのかね。
[父]
「宿代が浮いたから」といろいろ買ってくれた。
口には出さなかったけど通院への礼と引き続き祖父を頼むと言いたかったみたいだ。
「あの人を嫌うのって不可能だと思わない?」
ともちおに言ったら「思う」と言っていた。なんかすごい守護霊かなんかついてるんだろう。
いいよな。
長文はブログに書こうと思ったけど、ネット環境がないのでタイムラインに長文書いて失礼しました。
明日は早朝から父と宮崎に行く。なぜなのか書いてると4時くらいになるからやめます。おやすみなさい。
おじいちゃまが安らかな眠りの中にいますように。