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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」4------
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     電話の着信音で、おれより長風呂の彼があわてて浴室から出てきた。こういうとき素裸を期待しても無駄だ。床を濡らさないようタオルで濡れ髪をくるみながらも下だけはきちんとパジャマを穿いている。夏の盛りだ。風邪をひく心配はないのだからこんなときくらい隙をみせてくれてもいいのにと思わなくもない。一緒に暮らしはじめてもう数か月たつというのにあまりにガードが固すぎる。おれだって、なにもこのひとにパンツ一枚で家のなかを歩いてほしいとは願わないが同居人の役得くらいあっていい…[全文を見る]

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目をあけたまま
夢をみるのも
腰を振らなきゃ
生きてけないのも

なるでおなじじゃないかと
指が疼く

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」3------
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     彼女の七つの夢見式から識(し)ってました。私の初仕事でしたから。祖父が私の披露目に用意したのがそれでした。けれど彼女の一族は納得しなかった。生きているうちに伝説と化した夢使いにあがないをさせたがった。私の家と彼女のそれは浅からぬ因縁がありましてね。いっときはあのお屋敷に住まわせられたこともあったそうだ。まあいってみれば郎党です。離反したのは御一新(ごいっしん)の時で、社の件で揉めたのです。お縄になった者がいるだけでなく、ひと独り死んでるそうです。まあ昔の…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」2------
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     おれは何気ない顔つきで本の頁を捲りながら盗み聞きしている。彼のすぐ近くで、その初恋の人との会話を。
     伝説の、というのはこのひとの師匠の祖父にあたる夢使いで、たしか一万を超す人間に夢を饗したといわれる人物だ。資料館でみたかのひとの「階梯」は二階屋に届くほどのおおきさで見るものを睥睨し、その業績に相応しく偉大であった。いまなおおれの胸には横木縦木を金銀に煌めかす威容がとどまっている。あんなものを見たあとでその名を聞いては、さすがのおれも知らんふりではいられな…[全文を見る]

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よく似たものたちが
群れあう檻で
あなたを
見失わないように

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢も見ない」1------
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     おれの恋人はケータイの呼出音には敏感だ。長い髪を揺らして立ち上がりすぐさまそれを手につかむ。ケータイへの連絡はそれ即ち夢使い稼業の依頼に他ならない。だが、ごく稀に仕事の件ではないこともある。今夜の電話はそのプライヴェートのほうらしい。名乗ることなく電話に出た。

     あなたのお師匠さんにプロポーズされたんだけど、どう思う?
     委員長? いきなりどう思うか聞かれても僕にはその……
     こんなこと高校時代のクラスメイトに相談しちゃうあたしもどうかしてるんだけど、情けな…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」5------
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     メールひとつで約束を無碍に断られる。そんなふうだから遊ばれているのはわかっていた。なのに当の相手から連絡があればあたしはそれに縋ってしまう。過去に付き合った男たちも実はこんな気持ちでいたのかと、今ごろになって酷いことをしていたと気がついた。
     あのひとからの連絡が途絶えはじめて、あたしはますます食べなくなった。あのひとの女性らしい丸みのある柔らかなからだが欲しかった。抱かれるとほっとした。離れたくなかった。けれど逢いたいと重苦しいメールを送れば…[全文を見る]

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  • ---- 駄菓子 -----
  • 「駄」とは太った馬と書く。
    ならそれは存在理由がないか、かなり不足の状態であるか、
    そういう不名誉な冠なのだろう。

    さて、「駄菓子」と聞いて何を想うだろう。
    そのこたえひとつからでも食文化と時代が嗅ぎ取れる。
    (「チョコ」や「クッキー」というカタカナに「ハレ」を見る私には
    「コンビニ」で買う駄菓子というのがすでに意味不明なのだがw)

    駄菓子屋が私の視界から消えて久しい。
    奪ったのは神戸の震災だ。
    いずれ消えゆくさだめではあったが、あれさえなければ
    わが子が「駄菓子」について親との共有概念をはぐくむくらいの猶予…[全文を見る]

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笑っているだけで
笑ってくれるだけで
よかったのに

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作法があるのだ



駄という文字のつくものを
たべるのには

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」4------
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     わざとらしく固められた髪を丁寧に二度洗いする。嗚咽はシャワーの音にかき消され泡とともに流れいく。なぜ泣かなければいけないのかわからない。初めての男に遇ったから。ちがう。従兄が結婚するから。違うチガウ、そうじゃない。あんな男たちがじぶんの知らないところで勝手に幸せになっていることくらい、気にならない。
     けど、
     あのひとはシアワセだろうか。
     不幸でいて欲しいと呪った。ほんの少しだけでいいから。
     ほんの少しでいいから、あたしのことを、痛みとと…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」3------
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     二次会で何人かの男のメアドはありがたくいただいた。手際のいい相手はこちらのそれも持っていった。送るといわれて丁重にお断りをいれたのにしつこくされて眉をひそめたところで肩越しに声がかかる。
     こんな遅くにも着崩れた様子のないスーツ姿でやってきた従兄の腕をとる。困り事があると勝手に出てきて物事を解決してくれる、便利だけどうざったい人。
     よさげな相手もいたけれど、これで続きはなしになった。それもめんどうがなくて悪くはない。たぶん。

     じつは、結婚し…[全文を見る]

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」2------
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     結婚式の二次会が始まる前に、バッグにしのばせていた「お守り」を便器に流した。チョコレートクッキー。あのひとが、あたしにさいしょにくれたもの。取引先が主催するパーティー会場で、こういう場所で我先にと皿をいっぱいにする女はみっともないわよねといきなり悪口を聞かされながら。

     ごくたまに、こういう駄菓子が欲しくなる。どこででも買えて、すぐ口にほうりこめるから。

     あのひとはそういって、パティシエが拵えた愛らしいデザートを脇においた。IT企業の社長夫…[全文を見る]

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  • ------- 傘 -------------
  • 傘が、美しいものだと思ったこともなく
    つまり 実用性以外のことをかんがえて選ぶ習慣がなく
    それは 貧しかったからというのが一番の理由に違いないんだけれど。

    彼女が自分の傘を「綺麗だから好き」と言ったとき
    私は自分の気持ちに驚いた。
    私が美しいと思う彼女が美しいと言う傘。
    傘のほかにも彼女の目はしょっちゅう美しいものを映し出すのだった。

    そうして

    「美しい」ということの支配に気づくと、
    おおかたの人間は生きているのが辛くなる。
    辛くなった。
    ずいぶんと遅い気づきだったと思う。
    でも、遅かったぶんだけ悩む月日も普通の少女より軽く済んだかもしれない。
    いや、軽く済ませたつもりで、実際のところ何も済んではいないのかもしれないのだが。

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  • ---『夢のように、おりてくるもの』 第三部 「夢見ることさえ忘れはて」1------ 
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     あかちゃんができた。

     あのひとはそう口にした。旦那とはしてないって言ったのに。

     うそつき。

     あたしはそう罵らなかった。かわりに、おめでとうと返した。すると彼女はほっとしたようにテーブルのうえで組み合わせていた指をひらいた。上品なネイル。その睫の長さ、ごく丁寧に入れられたアイライン、それ相応の年なのにしみひとつ、しわひとつない肌を眺めた。これが最後だと思いながら。
     その、いかにも贅沢に拵えられた女のすべてを眼に焼きつけようと見つめた。

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