「知ってる」と答えた。「ねえつのねこさんていうのがいるのよ」と私が話しかけたらそう返事してくれたのだった。電気羊も羊であるからそりゃあつのが生えているわけで、でもぜんぜん違うつのだなあ、と弧にそって撫でる。つのねこさんは、しかのつの。「あら…でも…わたし…つのねこさんのこと、ねこだと思ってないんじゃないかしら」羊の顔を見ながら呟いた。「わたし、つのねこさんのこと顔の短いしかだと思ってるんじゃないかしら」つのねこさんの写真しか見たことがないから、枝分かれしたつのが生えていて、かわいいお洋服を着ていて、後足で立ち上がっていることしかわ…[全文を見る]
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Tips:書きやすい書き方が、読みやすい文章になるというものではない。時には読む側の目になって自分の書き物を見直してみよう。
うちの電気羊が…のことを語る
うちの電気羊が…のことを語る
昨日の夜中、めっ、と鳴く声に続けて「織姫のうなじが見たいです」と翻訳機が出力するからなにごとかと思ったら、旧暦の七夕だったらしい、もう日付は変わっていたけれど。カーテンを開けてやるも、窓の外は街灯で明るくて、夜空の晴れ具合すらわからない。ああ見えないね。織姫は毛織物も織るかしらね。牽牛は……牽くの牛だわね。
電気羊の蹄が床を鳴らすのを翻訳機が拾った。「牽牛なんてとんでもない!」怒っている。なだめようと伸ばした指先に毛が引っ掛からない。よもやうなじ見たさに自分のうなじの毛を刈ったかと。いや。刈ってなかった。電気羊かってなかった
うちの電気羊が…のことを語る
寒がって綿毛布の山に突っ込もうとするから、衣裳ケースの奥からセーターを出してみた。ラベルを見ると麻と綿で毛じゃないけど。着せようとしたら電気羊がぼろぼろ涙をこぼし始めて、鳴き声を何度訳しても、「もうおおかみになっちゃいけないんだ」と出力されてしまうし。でも
電気羊はとっくにおおかみで、自分の吐き出したトマトに埋もれて眠ってしまった。すごく沢山のトマトだから湯むきしなくちゃと氷を出そうとしたら、冷蔵庫は蜃気楼だった。足下は涙でちゃぷちゃぷだし。
電気羊かってなかった。電気羊にかってになったんだった。