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歓びの野は死の色すのことを語る

「ルネ」
 応えはなかった。
 立ったままの相手を見あげ、おれは続けた。
「手紙をもらったのに返事を書かなかったのは悪かった。すまないと思っている。だが、あちらでの生活が楽しくて、そなたのことなど忘れていた」
「それはもう」
「ああ。すんだことだ。だが、おれは自分でちゃんと謝りたかっただけだ。そなたの教えは役に立った。おれは田舎者呼ばわりされずにすんだ。感謝している」
 かたいままだった表情がようやくにして緩む。
「それはようございました。私もお教えした甲斐もあるというものです。であれば」
「たとえ頼まれても、女言葉は使わぬ」
「なにゆ…[全文を見る]

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歓びの野は死の色すのことを語る

花 2

「そのお姿は皇帝陛下からのお指図によるのですか?」
 ヴジョー家の男は立ったまま、こちらを見おろしてたずねてきた。気遣わしげな瞳と、くせの強い褐色の髪は昔のままだった。
「指図はない」
 おれは彼の横の椅子に視線をやって、座らせた。あの頃は、もう少し身体全体が薄くてもっと華奢なように感じたが……この男も三十になろうとするのだから、変わって当然だ。おれも相応に、少女から大人の女になっているはずなのだ。
 夕食を前にしてなんとなく口寂しいので砂糖菓子でも用意させたいのだが、ここではそう簡単にはいくまい。鈴をふって望みをいえば、…[全文を見る]

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歓びの野は死の色すのことを語る

花 1

 女の人生は花のようなものでございます

 誰かがそんなことをいっていた。たしかにそうかもしれない。いや、かつてはそう思っていた。
 だが、花はものをいわない。手足もない。さらにはきっと、何かを考える頭はないだろう……とすれば、女は花のようではあっても「花」ではない。
 それにしても、本来なら帰国を祝う夜会だなんだと誘われるはずが、一枚も招待状が届かない。この国の貴族社会から完全に無視されている状態だ。
 かつての知り合いが向こうから訪ねてきてくれるだけでも有り難いと感じるほど、ひとに疎ましがられる身分になりさがったというの…[全文を見る]

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歓びの野は死の色すのことを語る

【国家】

帝国領エリゼ公国
《死の女神》を守護神とする国。その《歓びの野》には青いヒナゲシが咲き、また《黄金なす丘》では黄金と同等の価値をもつ葡萄酒が生産される。主産業は毛織物。北西にモーリア王国、南にレント共和国と国境を隣する。

モーリア王国
北方の大国。若干20歳の国王は領土を拡大せんと目論み、《至高神》を崇めるものが多い。

レント共和国
かつての帝国貴族たちが独立して国を興し、150年ほど前から「共和制」をかかげる。守護神は《商いの神》。

帝国
大陸全土に広大な領土をもち、その支配は古代から千年以上も続く。皇帝は《太陽神》の…[全文を見る]

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歓びの野は死の色すのことを語る

【あらすじ】

――そなたの真実の母である《死の女神エリーゼ》のようになるがよい――  
皇帝陛下はそういって、エリス姫を彼女の生まれたエリゼ公国へ送り返す。
帝都留学から10年ぶりに帰国した彼女は、かつての教師で初恋の人である伯爵と再会するが……

【登場人物】
エリス姫
エリゼ公国の姫君にして、男装の女公爵。葬祭長。《死の女神の娘》と呼ばれ、黒髪に黒い瞳をもつ。

ルネ・ド・ヴジョー伯爵
エリスの元教師でオルフェの友人。太陽神殿の神官。エリゼ公爵家より古い家柄の騎士。

アレクサンドラ姫
女戦士の姫君。エリスの護衛として帝都から付き添う。

オ…[全文を見る]

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歓びの野は死の色すのことを語る

~ごあいさつ~
 
こんばんは。id:florentineこと磯崎愛です。
今夜からこちらのキーワードで、出来るだけ毎日更新! を目標に、
西洋風歴史SFファンタジー小説を連載していこうと思ってます。
このタイトルはもちろん、与謝野晶子の「 ああ五月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟(コクリコ)我も雛罌粟 」にインスパイアされてます。さらにこの小説自体が塩野七生さんの『ルネサンスの女たち』とホイジンガの『中世の秋』、デュマやジュール・ヴェルヌ、マーク・トウェイン等へのオマージュ作品です。
そのあたりがお好きな方ならきっと、どこかでツボに嵌まってお楽しみ…[全文を見る]