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けっきょく熊本で暮らすことにした。
歌仙の言葉に長谷部は目を丸くした。呼び出されたのは、大学のキャンパスだった。彼らはそこのベンチに腰かけて、互いを見ずに会話した。
東京は僕にはいささか慌ただしくてね、あちらには立派なお城はあるし水も綺麗で食べ物も美味しいし、熊本に帰るよ。色々と面倒をかけたね。
広光は、と掠れ声でたずねた。
燭台切さんのところにしばらくいるらしいよ。アルバイト先が見つかったら部屋を探すって言ってたけれど、ああ、大学は卒業しろと言っておいた。潰しがきくし、僕たちも通ったところだしね…[全文を見る]
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熊本に帰る。
歌仙が突然そう言いだしたのはそれから数日後のことだった。
光忠が、僕ここにいないほうがいい?邪魔? と尋ねた。歌仙は、べつにかまわないよと鷹揚に微笑んだ。
「俺も行く」
「そうだね。大学を卒業したらおいで」
歌仙は穏やかな声でこたえた。
そして、いちど俯いてから口にした。
「僕は長谷部と、君の叔父さんといちどちゃんと話し合いたい」
ゆるしてくれるかい、と首をかしげられた。広光は、拙い独占欲を受け入れてくれた相手へと深くうなずいた。
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声を聞かせろと懇願された。あいつには聞かれない。グラインダーをつかっても平気な防音設備がととのってる。
そういう問題じゃないとこたえる声は不様だった。好いところはあらかたもう覚えられていた。いや、どこもかしこも感じすぎてつらかった。歌仙は昔付き合っていた女たちのことを思い出し、申し訳ないきもちになった。そうして歌仙の気がそがれると強いちからで引き摺り戻された。あいつを忘れるために俺を利用しろと唆しながら、広光は歌仙をゆるしているとはおもえない無遠慮さで何もかもを暴き立てて奪っていった。それでいい――歌仙は呻い…[全文を見る]
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翌朝、頼みがある、と広光が頭をさげた。
なんだいあらたまって、とたずねると、ホテルを出て自分の友人の家にいてくれと言われた。
歌仙は眉を寄せたが、けっきょくはうなずいた。
燭台切光忠という背の高い美丈夫の家に連れていかれた。家というよりそこはアトリエで、立体の作家だった。
光忠は歌仙をみて、モデルになってもらいたいくらい美形だねえと目を細めると、気安く声をかけるなと広光が苦い声をあげた。それから、光忠、俺が帰るまでそいつを絶対に独りにさせるな。俺はとりあえず大学に行くと言って出ていった。
昨夜のうちに大学…[全文を見る]
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歌仙はホテルに腰を落ち着けた。しばらくはここにいるよと口にした歌仙の横顔を盗み見た。ひとりにしてやったほうがいいのかわからなかった。
すると、ソファに座ったままの歌仙が声をかけた。
「君は、ご実家に戻るのかい」
「いや」
「それじゃどうするんだい」
首をかしげた歌仙を見つめながら、俺は父親に似ていると広光はおもった。歌仙に、君は父親を殴り返さないくらいやさしいと指摘されて顔を背けたことがある。あのとき、やさしいわけじゃないと言い返しはしなかった。暴力と支配と愛情との境目がもう、広光にはわからない。歌仙に出逢うまで…[全文を見る]
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長谷部が仕事に出たあとはたいていしばらく二人きりだった。歌仙は、編集者というのはたいてい寝坊助だよとわらった。午前中はソファに腰かけて本を読んでいた。
小説を書かないのかと問うと、なんだか書けなくてねと苦笑した。
地方の文学賞の選考委員賞というのをもらい、文芸誌に掲載はされたが本はまだ出ていないという。
歌仙がつぶやいた。
自殺した母親のことを書いたんだ。
向かいに座っていた広光はひとみだけあげた。
母親のむすめ時代のことをね。あまりにも距離がちかすぎて書けないかとおもったけど書いたらずいぶんと楽になった。あ…[全文を見る]
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ホテルを引き払った歌仙は長谷部の家にとどまった。昼や夕方は編集者との打ち合わせや部屋探しで家をあけたけれど、夜には帰ってきて台所に立った。広光は半ば強制的にその横で手伝いをさせられた。
君、怪我をして動けないわけでなく、大学生にもなって何もしないつもりか。こどもでも家の手伝いくらいするものさ。
大上段に正論を述べられてしまっては返す言葉もない。いや、もともと広光の口数はけっして多くないのだ。
歌仙兼定は文句の多いおとこだが、そのいっぽう褒め言葉をも惜しまなかった。おや、君は手際がいいねと微笑んだ。それを本人の前で言…[全文を見る]
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「怪我をしてるじゃないか……」
歌仙が手を差し伸べると広光はそれを振り払った。お前、誰だと鋭く問う。先客がいるなら俺はいいと立ちあがった広光を引きとめたのは歌仙だ。君はここいいるといい、僕がホテルへ戻ればいいだけだ。ともかく中に入れと長谷部がうながした。先ほどまでの気分は霧散していた。
大したことはないと言い張る広光の手当をし、風呂へ押し込み、それからすぐに歌仙につかまった。大倶利伽羅は甥にあたる、つまり長谷部の年の離れた姉のこどもだった。姉は夫の暴力に耐えかねて家を出てそれっきりであることも告げることになった。
話す…[全文を見る]
【十年後】
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その十年後――
長谷部はある政治家の秘書におさまっていた。彼の学費その他の面倒を見てくれた黒田という男だった。
その事務所に一本の電話がかかってきた。懐かしい声だった。
国会議員秘書とは出世したね。東京に行く。住まいを探すつもりなので、ともかく一度会いたい。
相手の都合を鑑みることのない歌仙兼定のものいいに長谷部はわらった。怒るものかとおもっていたが、ただただ笑えた。
君、失礼だな。
お前こそ。
そうだね、すまない。
少しも悪びれない声がいった。
歌仙は小説家になっていた。父親の事業はそうそうに近親者…[全文を見る]
『人生の短さについて知らなかったことの数々を』
【十年前】
――本当に、よくわらう男だとおもっていた。
「君、僕をよく見てるだろう?」
四月も半ば過ぎた、風の強い日のことだ。
長谷部国重に声をかけたのは、よくわらう男、歌仙兼定そのひとだった。
珍しくひとりで、いつもの笑顔ではなく、射抜くように長谷部を見ていた。
かれらは同じ大学の学生だ。
長谷部は地元の名士が買い上げた寮住まいで、そのすぐ向かいのマンションに歌仙は独り暮らししていた。キャンパスの中でも外でも、歌仙はいつも華やかな集団の真ん中にいて、長谷部はときおりその姿…[全文を見る]
大塚英志 presents 『未来まんが研究所』~物語の学校~#0
現代の若者の"創る"力を刺激する『ニコニコ教養講座』
http://live.nicovideo.jp/watch/lv69337346?ref=ser&zroute=search&track=&date=&keyword=%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%81%AE%E5%AD%A6%E6%A0%A1&filter=+%3Aclosed%3A
この回まだみてないのにはっておきます、という不手際をさらしますが、
そして小説じゃなくて漫画のほうがいいのかもだけど、いきなりいまエイゼンシュタインだし、
まあタイトルは「物語」なので
IDないと見れないですが、本よむのとまた違って声で聴くとまた面白い
「エンタメ小説」
さいきんとみに思うのだけど
それは、じぶんが小説を読んでいる、
もっというと本を読んでいることすら忘れさせるための技巧を凝らしたものをさす
メモ的に
「描写」
基本的に、それは「物語」を遅らせるものである
スピードを落とすものとして存在する
遅延や迂回こそ「読む」ことの歓びっていう小説読み巧者タイプのひと以外、
または読者にとって御馳走になるようなものでない限り、
はてはそれが「神は細部に宿る」方式で主題に絡むものでない場合をのぞいては、
わたしは、積極的に省くようにこころがけている
WEB小説めも
小説家になろうやサイト掲載と、アルファポリス、恋愛遊牧民その他小説検索サイトは同時掲載(連載開始と宣伝が同時)が理想
ずれると閲覧数が激減する(連載始まってだいぶ後に宣伝登録とかだと不利
つまり初動が命(らしいよ? 今までずらしてなかったから気づかなかったけど、今回やってワカッタ これだけ差が出るのかと 当たり前にしてたことですが 今回はだから惜しいことしたな、わたし)
この恩恵は逃さないほうがいい、絶対に
それから、まとまった連休や土日に宣伝開始になるともっといい
ただし、検索サイトによっては必ずしもすぐに登録確認し…[全文を見る]
文字数について
WEB小説の検索サイト等に登録するさい、一頁1000字以上というのが目安のひとつです。
少ないところだと800字もあるかもですが、とりあえず1000字が多いかな?
(わたしはもちろん一頁の文字数とっても多いですよ、ええw それでも原稿用紙10枚以上にはしないようにしています、スクロールが辛いとクレームをいただくことがあったので 長文よむのがキライじゃなくても、スクロールを面倒がるかたはいらっしゃいます)
あと、ひとによってはあの「次」をクリックしていく快感というのもあるらしいです
それから、
連載の場合は新聞小説的…[全文を見る]
すみません!
いまスタコメでおはなしいただいて訂正いたします
× コーラブック
○ コラブックストア
です
お詫びして訂正いたします
【WEB小説掲載めも】
(わたしが2008年からWEBで書いてきたことのテキトウなまとめ(笑)なので、他にこんな方法もいいよーとか、ここが使い勝手よいよーなんてのがあったら教えてくださったらうれしいです☆)
(例によって、あとでブログにはろうとおもってるなう)
「同人誌の小説」についてhttp://florentine.hatenablog.com/entry/20101122/1290441998 、とセットで
・自サイトにまず掲載
あらすじなどなるべくわかりやすく、場合によっては結末ハッピーエンドですとか書くほうがいいこともあるくらいです
小説によってはキャラ表や世界観設定も必要…[全文を見る]
ミクロヒストリーと日常生活の歴史
http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/vol_2/pdf/vol_2_article02.pdf
うむ、小説キーワードに投稿してもいいだろという内容
後半にはカルヴィーノ様やらジョイスさんやらがいらっしゃるので
歴史のおはなしだけどわたしみたいな小説かいてるひとのほうが面白く読むんじゃないかと勝手に思いましたです
http://d.hatena.ne.jp/florentine/20101126
小説を書くことについてお悩みのかたへ
小説家の書いた小説本を紹介してます
エーコ先生から栗本へんへまで(笑)
いただいたコメントやブクマが素晴らしいのでそちらもどうぞ☆