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そう言ってのち、声高く「ラザロ外に出なさい」と呼ばれた。すると死者は、手と足を布でまかれ顔を汗拭きで包まれたまま出てきた。イエズスは人々に、「それを解いて、行かせよ」と言われた。 ヨハネ11-43

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「居間兼書斎は長方形の広い部屋で、三方の壁面をおびただしい数の書物が埋めている。革表紙の匂いを立てる書物がぎっしり詰まった棚が段をなして重なり、天井に達しているのだが、第四の壁だけは、普通の居間と同様に、大きな暖炉が切ってあり、マントルピースは頑丈な樫材、火格子の鉄枠が光輝を放ち、暖炉の上には、いまはこの家の名物になったサーベルが二本、ぶっちがいに吊るしてある。これは若き日のリチャード・クイーンがドイツに留学中、ニュルンベルクのフェンシングの教師から贈られたものなのだ。広い室内のあちこちで、いくつかの室内灯がまたたき、安楽椅子…[全文を見る]

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たとえば、薪のおきのなかで焼いたばかりの、とても熱い、白い、小さい丸パン、塩のきいたバタ、オリーヴ油のたっぷりかかったサーディン、牛の腎臓のひき肉料理。ポーチ・エッグに、いためベーコン、皮からはじけ出ているようなふといソーセージ、つめたいジェリーとタマゴの黄味が、パイの皮の下にかくれている自家製ブタ肉パイ。イチゴ・クリームには、こまかくふるった砂糖がかけてあり、ラズベリー・クリームには、かむと、かりかりするキャンディ式にかたまった黒砂糖がかけてあった。それから、とりたてのおいしいキノコとトリの煮たの。ミツバチのすのかたまりにク…[全文を見る]

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「ボーマンは、興味をある一つのものに集中することのできない人間だった。(…)だが彼の決断は正しかった。専攻を選ばないというその事実が、彼を現在の任務につけるユニークな資格となったのだ。フランク・プールもほぼ同じで ― ときには自分のことを宇宙生物学のしろうと研究科と軽蔑的に呼ぶこともあるが ― ボーマンの助手には理想的な人選だった。この2人が一致協力し、さらに、必要な場合ハルの厖大な情報の宝庫が加われば、旅のあいだに持ちあがるどんな問題も必ず解決できるはずだった ― 少なくとも、常に心を油断なくとぎすませておき、過去に学んだ知識を絶えず記憶…[全文を見る]

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 (…)目まいがひどくなってゆく。彼は子供が黄色い蝶をつかまえようとするときのように、みごとな小さな壁面にじっと見入っている。「俺はこんなふうに書くべきだった。近ごろの作品は無味乾燥だ。上から上へいくつも絵具を塗りかさね、俺の文章の一句一句を立派なものにすべきだった。この黄色い小さな壁のように」しかし目まいのひどさを彼はちゃんと意識していた。彼の目には天の秤に、自分の生命が一方の皿にのっているのが見えた。もう一方の皿にはみごとにかかれた小さい壁がのっている。彼は小さな壁のために無謀にもいのちを犠牲にしたことを感じていた。
 彼は心に繰りかえした「庇のある黄色い小さな壁、黄色い小さな壁」
プルースト『失われた時を求めて』 第五篇 囚われの女

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「(…)夕刊の最終版でヨックスリー事件の記事は読まれましたか?」
「いや、今日は十五世紀以降のことは何も目にしてない」
コナン・ドイル『金縁の鼻眼鏡』

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「『プサーズ・カイ』とはココアの一種なのです。荒天の夜間当直にのむものでしてな。プサーズ・カイがよくできたかどうかは、コップのまんなかにスプーンをつき立てて、立つかどうかということらしいのです」
フィリップ・ターナー『ハイ・フォースの地主屋敷』

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「アルヴェリックは、落陽を背にしてこの蒼白い山々を眺め、その峰の頂が夕陽にどんな色に映えるか見ようとした。しかしそれは、落ちてゆく太陽からどんな色あいも受けていなかった。夕陽の輝きは、私たちの野原を金色に染めあげる。しかしここでは夕陽は、絶壁の襞一つ染めない。影一つ色濃くしない。アルヴェリックはこの魔の国では、どんなことが起こっても、変化というものがないことを知った」
ダンセイニ『エルフランドの王女』

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「さてと、ところできみ……」
立ちあがって、こちらに向かって再び話しはじめた特別司法警察職員は、予期せぬマロワンの視線に出くわして、驚きのあまり一瞬口をつぐんだ。その視線は、重々しく深く、はるかな高みから発してエナメル製の靴をはいた小男の正体を見定めるような、静かな強さを湛えていた。
ジョルジュ・シムノン『倫敦から来た男』

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マロワンは物置に鍵をかけ、靴底で砂利を踏みしめながら歩き出し、切り通しの急坂をのぼって行った。並んで建つ三軒の家の煙突からは、朝日に照らされてバラ色に染まった煙が出ていた。窓の下は、いずれの家も白い建築用石材が使われている。振り返ると一艘のトロール漁船が、引き潮の力だけで動いているかのように、タグボートの曳航を受けることもなく、音も立てずに出港していくところだった。
ジョルジュ・シムノン『倫敦から来た男』

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雌じしのためにえさを狩り、
子じしの飢えを満たすのはおまえか。
彼らが穴にうずくまり、
茂みに待ち伏せしているときに。
からすの子が神に向かって鳴き、
えさもなくさまようとき、
からすに食べ物を与えるのはだれか。
―ヨブの書 38章39-41

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「りすはもうすっかり死んでるわよ」
と、ちびのミイは平気でいいました。
「すくなくとも彼は、死ぬまえにうつくしいものを見たのだ」
ムーミントロールは、声をふるわせて、こういいました。
「そうかもしれない。でも、とにかくもう、そんなことはわすれちまってますよ。あたい、この人のしっぽで、かわいい上等のマフをこしらえるわ」
― トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』 山室静 訳

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「狼が時々でますか」
「シュルレアリストが出てペルノを飲まして
こまるだべ」
ー 西脇順三郎 『失われた時』

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「四方の石の壁は融けてなくなり、そのかわりにただ一本平らに伸びる冬の地平線が現れた。彼は雪と空だけの世界にたったひとりで佇み、風の音に耳をすまし、その中に混じりあっている匂いを嗅ぎわけようとしていた。(…)風は痛いほどに青い空から叩きつけるように吹き、さまざまな陰影を帯びた匂いを運んできたが、突然彼は自分がそれらに名前をつけられることに気づいた。水、野兎、狼、松、ヴェスタ。」
「彼は動かなかった。じっとしていると寒さが彼を苦しめにかかったが、やがて静寂が手に触れられるものとなって彼の呼吸や心臓の鼓動を律しはじめると共に、その感覚は過ぎ去ってしまった。静寂は彼の思考の中へ忍び込み、骨に浸透し、ついに彼は自分が空ろになり、冬の静けさを包む殻になったように感じた」
―パトリシア A. マキリップ『星を帯びしもの』脇明子訳

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「月光をあびた霜夜の牧場は、霜のはった一枚ガラスをひいたようで、川は黄金のようでした。川の黄金は、ふたりがみがいた、黒いひだのいくすじもはいった古いリネットの腕輪のようでした。寒さで電線がキンキン鳴っていました。その音は電柱に耳をあてると、びっくりするほどひびくものです。家の窓からさすあかりもなく、あたりにうごく生きものの気配もありません」
―ルーシー M. ボストン『まぼろしの子どもたち』瀬田貞二訳

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「この世界には、夏や秋や春にはくらす場所をもたないものが、いろいろといるのよ。みんな、とっても内気で、すこしかわりものなの。ある種の夜のけものとか、ほかの人たちとはうまくつきあっていけない人とか、だれもそんなものがいるなんて、思いもしない生きものとかね。その人たちは、一年じゅう、どこかにこっそりとかくれているの。そうして、あたりがひっそりとして、なにもかもが雪にうずまり、夜が長くなって、たいていのものが冬のねむりにおちたときになると、やっとでてくるのよ」
―トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』山室静訳

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「てふ」「てふ」はチョーチョーと読むべからず。蝶の原音は「て・ふ」である。蝶の翼の空気をうつ感覚を音韻に写したものである。
―萩原朔太郎 『青猫』所収「恐ろしく憂鬱なる」の註

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ベルマンは海を描いた大きな海図を買ってあった。
  陸地は寸土たりとも記されてない。
だれにでもわかる海図だと知ったときには
  乗組員一同ことのほか喜んだ。

―ルイス・キャロル『スナーク狩り』第二章 沢崎順之助訳

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「その時、私は自分が求めていた印が、人群の中で人にお辞儀をするような小さなことではないことを知って、神殿の幔が上から下まで避けたという、子供の頃に聞いた言葉を思い出した。」
イーヴリン・ウォー『ブライヅヘッド ふたたび』吉田健一訳

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「私にとってグルーヴというのは、外部から影響を受けずに瞑想するための空間のようなもの」
―ミシェル・ンデゲオチェロ ベースマガジン2005年4月号