かぐや姫 14 五人の求婚者への難題
おじいさんは、かぐや姫に、男たちのことばを伝えました。
かぐや姫は、五人に、見せてほしい品をいいました。
石作(いしづくり)の皇子には、「お釈迦様がつかったという仏の御石の鉢」を。
くらもちの皇子には、「東の海に、蓬莱という山がある。その山に、根は銀・幹は金・実は白い玉がなっている木がある。
それを一枝折ってきてください」と。
安倍御主人には、「唐土にあるという火鼠の皮衣を」。
大伴の大納言には、「龍の頸に、五色に光る玉がついている。その玉を」と。
石上の中納言には、安産のお守りだといわれている「つばめが持っている子安貝」をと。
かぐや姫 13 五人の求婚者への難題
日が暮れる頃、いつもの五人がやってきました。
ある者は笛を吹き、ある者は大きな声で歌を歌い、ある者は楽譜の旋律を口ずさんでいます。
また、ある者は口笛を吹き、ある者は扇をたたき拍子をとり、外でさわいでいます。
おじいさんは玄関をでて、五人に姫の気持を伝えました。
「もったいなくも、長い間わが家に通っていただきありがとうございました。どなたも立派なかたです。私が見たいと思う品を用意してくだされば、私に対する愛情がはっきりするでしょう。結婚するかどうかは、私に対する愛情の深さで決めたいと思います」と。
「それで、結構だ」
五人が、口々にいいました。
かぐや姫 12 貴公子たちの求婚
「あの人たちは、なぜ毎日やってくるのでしょう。愛情の深さを確かめないで結婚しても、後で後悔します。どんなに素晴らしい人でも、愛情があるかどうかを確かめなくては、結婚する気にはなれません」
「姫は、どんな人と結婚したいと思っているのかね。あの五人は、立派な志をもったかただと思うが」
「あの五人は、どれほど深い愛情を、私に持っているのでしょう。五人の愛情は、同じ程度だと思います。このままでは、どの人がいいのかわかりません。私が見たいと思う品を、見せてくれる人と結婚します。五人に、そう伝えてください」
おじいさんは、姫の気持を、五人に伝えることにしました。
かぐや姫 11 貴公子たちの求婚
「姫。うれしいことをいってくれるね。じいは、今年七十になった。いつまで生きていられることか・・・。じいが気になるのは、ただ一つ。姫のことだけ。この世の人は、男は女をめとり、女は結婚してこどもをうむ。そうやって、一族が栄えていくのじゃ。姫は、結婚する気はないのかね」
「じい、なぜ結婚しなくてはならないのですか」
「姫は、女だから。じいが生きている間は、生活にも困らないから、一人でいられるだろう。でも、じいが死んでしまったら、生活に困る。今も、五人が、姫に会いたいといって毎日きている。姫、その中の一人と、結婚したらどうかね」
かぐや姫 10 貴公子たちの求婚
そして、かぐや姫に対する切実な心をみせつけようと、家のまわりをぐるぐる歩きまわりました。
そんな男たちの様子をみて、おじいさんがいいました。
「姫よ。変化の人とはいいながら、こんなに大きくなるまで、姫を育てたじいの気持もわかってほしい。どうかじいのいうことを聞いておくれ」
すると、姫が。
「じいや。何をいうのですか。じいのいうことは、何でも聞いているではありませんか。私は、じいのことを、ほんとうの親だと思っていますよ」
かぐや姫 9 貴公子たちの求婚
十二月になり雪が降っても、真夏の暑い日にも、雷が鳴り響く時にも、五人は毎日かぐや姫の家へやってきました。
そして、おじいさんを呼び出し、「かぐや姫と結婚させてください」と、お願いしました。
「かぐや姫は、わしら夫婦のこどもではないので、思い通りにはなりません」
そういって、おじいさんはことわりました。
月日がどんどんすぎていきます。
五人は、家に帰っても、物思いにふけり、かぐや姫への思いを絶ち切ることができません。
五人は、「そうはいっても、最後にはかぐや姫に会えるだろう」と、期待していたのです。
かぐや姫 8 貴公子たちの求婚
普通の人でも、「あそこの娘は、器量よしだ」と聞けば、その娘をひとめみたいと思うのは無理もありません。
この五人は、どんな手をつかっても、かぐや姫をみたいと思う気持が強かったのです。
ろくに食事もしないで、かぐや姫の家へやってきて、家の前に立ったり、家のまわりをぐるぐる歩きまわったりしました。でも、かぐや姫をみることはできません。
そこで、五人は、かぐや姫に手紙を書きました。
でも、返事はきません。
恋する歌を詠み、かぐや姫に届けましたが、何の返事もありません。
かぐや姫 7 貴公子たちの求婚
かぐや姫の家の前から離れようとしない男たちは、昼も夜も一日中、かぐや姫の家のまわりで過ごしました。
しばらくすると、多くの男たちは、用もないのに家のまわりを歩きまわることは迷惑だろうと思い、かぐや姫の家へこなくなりました。
男たちの中で、かぐや姫の家に居続けたのは、五人。
五人は、かぐや姫への思いが消えることなく、昼となく夜となく、かぐや姫の家へやってきました。
五人の男とは、石作の皇子・くらもちの皇子・右大臣安倍御主人(あべみぬし)・大納言大伴御幸・中納言石上(いそのかみ)磨足でした。
かぐや姫 6 貴公子たちの求婚
美しいかぐや姫の評判を聞き、朝廷に仕えている男たちは、身分の高い人も低い人も、なんとかして、かぐや姫をひとめみたいものだと思いました。
見たこともないかぐや姫を恋い慕い、おおぜいの男たちが心を乱していたのです。
かぐや姫を恋い慕う男たちは、夜も眠らず、闇夜にやってきました。
そして、土塀などに穴を開け、垣根越しにのぞき見をしました。
しかし、かぐや姫をみることはできませんでした。
召使いたちに、「せめて伝言を」とお願いするのですが、誰も相手にしてくれません。
かぐや姫 5
そして、女の子を部屋から一歩も出さず、宝物のように大切に育てました。
女の子は、この世の人とは思えないほどの美しさでした。
女の子の部屋も、満月に照らされたかのように光輝いています。
おじいさんは、苦しいことがあっても、腹立たしいことがあっても、女の子の顔をみるとほっとし、いやな事を忘れてしまいました。
女の子が大きくなったので、御室戸斎部の秋田を招き、名前をつけてもらうことにしました。
女の子の名前は、「なよ竹のかぐや姫」と決まりました。
かぐや姫の命名式を祝って、三日間、歌を歌ったり、舞を舞ったり、琴などを演奏しました。
「かぐや姫」を読んでいただきありがとうございます。
「かぐや姫5」は、「かぐや姫4」のまちがいです。
かぐや姫 5
「ばあさん。今度は、竹の中に、黄金が入っていたよ」
「えっ、竹の中に黄金が? それにしても、ふしぎなことが続くわね」
その後も、おじいさんが竹をとりに行くと、「ぴかっ、ぴかっ」と光っている竹の中に、何枚も黄金が入っていました。
おじいさんは、だんだんにお金持ちになりました。
三ヶ月後。
手の平にのるほど小さかった女の子は、普通の大きさになりました。
おじいさんとおばあさんは、女の子のために、髪を結う儀式を手配し、きれいな着物を着せました。
かぐや姫 3
「おじいさん。この子を、二人で育ててあげましょうよ」
「そうだね。そうしょう」
女の子は、おじいさんの家で暮らすことになりました。
あまりに小さいので、籠の中に入れて大切に育てました。
一ヶ月後。
おじいさんが竹をとりに行くと、「ぴかっ、ぴかっ」と光っている竹がありました。
「竹の中に、また女の子がいるのかな」
竹を切ってみると、今度は竹の中に黄金が。
数えてみると、十枚も黄金が入っていました。
かぐや姫 2
「なんてかわいい子だろう」
おじいさんは、女の子を家につれて帰りました。
「ばあさん、ばあさん」
「何ですか、おじいさん。大きな声を出して」
「ばあさん。かわいい女の子をつれてきたよ」
「えっ、どこに?」
「ここだよ」
おじいさんは、手のひらに、女の子をのせてみせました。
「小さなかわいい子ね。どこからつれてきたの」
おじいさんは、いつも行く竹林で、女の子をみつけた時の様子を、おばあさんに話しました。
かぐや姫 1
昔、むかし、大昔。
ある所に、竹取りのおじいさんがいました。
名は、讃岐の造。
おじいさんは、竹をとり、籠などを作って暮らしています。
ある日。
おじいさんが竹をとりに行くと、「ぴかっ」と光っている竹がありました。
「何だろう」
竹を切ってみると、竹の中に、小さな女の子が。
三寸位のかわいい女の子でした。